ねこねこ看守と、庭園迷宮デスゲーム（？）｜リアクション

ねこねこ看守と、庭園迷宮デスゲーム（？）

　木は本に、本は木に

「はい、ねこさん捕まえました」
「これで三匹目、かな？」

　看守の綾辻綾花と早川珪は、逃げる途中で日向ぼっこのほうが気持ちよくなってしまったねこ囚人たちをひょいひょい捕まえているところだった。
　彼女たちが次々と成果をあげていくのには、理由がある。
「さて、この木の幹にも猫を描いて……っと」
　綾花は、樹木に簡素ながら可愛らしい猫のマークを書くと、その箇所に触れてろっこん＜読破＞を発動する。
　すると、迷路の一部だったその樹木はたちまち本に変化して、思いがけない道が現れることになる。
「勝手に動いて迷路を変えるだけあって、ここの木はただの木じゃないみたいですね。自然の樹木というより、なにかゲームのアイテムのような……」
「だからこそ、本にしてその場所から取り除いたり、別の場所に生やし直したりできるってわけかな？」
「そうなんだと思います」
　ふつうの樹木で同じことができるかわからないが、ひとまずこの庭園迷宮のなかでは、綾花のろっこんはかなり便利に使えるようだった。
「珪さん。この木の陰に一匹隠れていそうです。わたしがこの木をどかしますから、珪さんは向こうの角から回り込んで追い詰めてもらえますか？」
　こそこそと耳打ちすると、珪のほうも楽し気に頷く。
「了解。タイミング見て、合図よろしく」
　彼もだんだんとこのデスゲーム……もとい、可愛らしいねことの鬼ごっこが楽しくなってきたらしい。
　消したい木の幹に手早く猫マークを描き、珪が角のところに待機したのを確認すると、綾花は三、二、一……と指を折ってＧＯサインをだした。
　＜読破＞！
　そこにあったはずの樹木がぱっと消えて――正確には本になって――隠れていたねこがびっくりして跳びあがる。当然、綾花から逃れようと駆けだすが、道の片側からは珪の姿が。進める方向は珪が来る方とは反対へ伸びる道のみとなり、ねこは咄嗟にそちらへと走る。だが、それこそ綾花の思うつぼ。
「ええーい！」
　綾花はねこの前方へ本を投げるとすかさずろっこんを解除する。と、ねこの行く手に樹木の壁が現れて、道は突然行き止まりになる。パニクったねこはその場で固まり――、
「はい、捕まえました」
　綾花に抱え上げられる、という寸法だ。
「おねーちゃん、すごーいっ！」
　ぺちぺちという拍手が聞こえて、樹木の陰から囚人服を来た幼い少女の顔がひょいっと覗いた。梓楓である。
「木が本になって、また木になったの！？　もっかいやってみせてっ！」
　好奇心の塊になった楓は、自分が囚人だということも忘れて、看守の綾花へ向かって無邪気に駆けた。
「えーっと……」
　一瞬戸惑った綾花だったが、さっき捕またねこを珪に渡すと、飛び込んできた楓を両手でぎゅっと抱きとめる。
「はい。捕まえましたよー」
　あああ……と顔を手で覆ったのは、猪突猛進な娘を追ってきた梓智依子だった。
「はあ……看守さん。私のことも捕まえてくれる？　娘を残して逃げるわけにもいかないから」
　――好奇心は猫を殺すというけれど、幼子の好奇心も似たようなものだ。
　ゲームには負けたけれど綾花に魔法ならぬろっこんで木を消すところを見せてもらった楓は、ご機嫌でママと手をつなぎ、中央部のティーパーティへと向かったのだった。