ねこねこ看守と、庭園迷宮デスゲーム（？）｜リアクション

ねこねこ看守と、庭園迷宮デスゲーム（？）

　デスゲームはのんびりまったり？

　きびきびと統制のとれた動き――とは真逆のまったりとした雰囲気のまま、看守たちは逃げた囚人たちを捕まえるべく庭園迷宮に散っていく。
「行こうワット」
「了解。なにか作戦があるのかなぁ？」
　稲積柚春は、盗賊スタイルのカプセルギアを手に、口角をあげる。カプセルギア（通称カプギア）とはスマートフォンなどの専用アプリ『A.I.C.O.』でラジコンのように自由に操縦できる玩具だが、柚春にとってはただのオモチャではない。毎夜、日々の出来事や悩みを報告するような、夫のワットとは別の意味で大切な相手だ。
「この子に高いところから確認してもらう。曲がり角の先が行き止まりじゃないかとか、囚人が忍び足で潜んでるとかはわかるかも」
　それを聞いて、ワットは目をぱちくり。
「いいアイデアだと思うけど……いや、なんか……その子、僕のことしか見張らない気が……」
　言ったそばから、カプギアの目がワットを睨んでチロリンと光った気がする。
「いいから、ほら、高いところに置くのを手伝って？」
「高いところに？　君を肩車でもすればいいのかなぁ？」
　言うが早いかしゃがみこんで、柚春を肩車してしまうワット。
「え、わっ……きゃ！」
　突然のことに柚春はどぎまぎしてしまう。
「どう柚春。高いところ、置けそう？」
「えっ……ちょっと待って」
　梢のほうへ腕を伸ばして機体を置こうとしたが、バランスを取るのが難しくてぐらついた。思わず彼にしがみつき、もうちょっとこうしていたいと思ってしまう。
（こんなに格好良い看守に捕まりたかったような……逃げ回って翻弄しちゃいたいような）
「柚春、どうかした？」
「ううん。なんでも……って、あ！」
　柚春は上げかけた声を慌てて呑んだ。
　木立の向こうに、囚人がいる。
　柚春たちには気づいていなさそうだ――

「ポカポカしていい陽気ね。お散歩に最適」
「ふふ、さゆるとならなおさら、ね」

　木立の向こうを歩いていたのは、朝鳥さゆるとじゅんだった。
　たしか昨夜は……優しく愛しあったあと、パジャマも下着も纏わぬまま眠りについたはずだったのに。
「気づけば囚人服なんか着てるんだもの。その上、ねこねこ看守がやってきて猫罪の容疑がどうのって……わけがわからないわ」
　ねこねこ看守が告げたところによると、さゆるは『ひざのうえに乗ってる猫をそっと降ろそうとした罪』、じゅんは『猫をほったらかしてスマホさわりすぎの罪』で極猫犯……らしい。
「たしかにじゅんはスマホを触りすぎだけれどね」
「しょうがないじゃない。チェックしなきゃならないことがいろいろあるのよ。新作アニメの情報とか日々更新される縦読み漫画とか同担な絵師さんのＳＮＳとか……」
　オタクキャバ嬢・まみ子として働くじゅんは、『キャバ嬢・まみ子』の部分を捨てたオタクの顔で力説した。さゆるもじゅんに影響されて、たまに一緒に観たりしているが、じゅんの域は到底、達することはなさそうだ。
「それにしても」
　と、じゅんは疲れたようにため息をついて立ち止まる。
「この庭園迷路、のどかに見えて実は凶悪な作りじゃない？　道がカーブしてる上に、迷路自体が動いたりして、方向感覚まで狂っちゃう」
「一応、北の出口を目指してるつもりだけど」
「んもうっ、どっちが北よ！　太陽が真上なせいでわかんな～い！」
　そのときだった。
　行く手に突如、看守・ワットが飛び出してきた。
「っ、見つかった！　走るわよ、じゅん」
「え～っ、走るの？　でも捕まるのも癪だし、仕方ないなー」
　踵を返し、ワットが現れたのと反対方向に走り始めるさゆるとじゅん。
　だがそれを待ち構えていたかのように、反対側からは柚春が姿を現す。
「逃がさないよっ！」
　さゆるはたたらを踏んで立ち止まった。
「くっ、挟み撃ち……！　じゅん、こっち！」
　残っていた道は内側へ戻る道だったが仕方ない。さゆるはイチかバチか、じゅんの手をとってその道に飛び込んだ。柚春のカプギアが追ってきている。
「しつこい……っ！」
　走って走って、うっとおしいカプギアはなんとか撒いたが。
「にゃーにゃーにゃーにゃーっ！」
「囚人め、御用にゃ～っ！」
　不運にも大勢のねこ看守とでくわしてしまい、あえなくお縄となってしまった。
　カプギアの案内で追いついてきた柚春とワットは、ねこまみれなさゆるとじゅんに思わず笑った。
「残念。ねこたちにお手柄とられちゃったみたいだねぇ」
「うん、でもいいや。なんか和むし」

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ねこねこ看守と、庭園迷宮デスゲーム（？）

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