流したてのコンクリの上を猫が通らぬ様に見張るだけのお仕事です｜リアクション

流したてのコンクリの上を猫が通らぬ様に見張るだけのお仕事です

●本日、流したてのコンクリの上を猫が通らぬ様に見張るだけのお仕事の日です

「うわ～、今日もあっついなー！」
　７月も中旬ともなれば、午前中でも日差しは強い。
　服から露出した腕が、太陽光線で痛いくらいだ。
　風雲児轟はフライパンで肉を焼きながら、早くも額に滲み始めた汗を拭った。
　火を使っているせいもあり、時折吹き込んでくる微風も、気休め程度にしかならない。

　ここは桜花寮の調理場。桜花寮は最近まで食堂も男女別になっていたのだが、今では共用となっている。よって轟も寮母の座間トシコに許可を得て、女子寮の食堂でお弁当作りに励んでいた。
「これでよし！」
　米を覆い尽くさんばかりの肉、ボリューミィな弁当を完成させれば、気力が溢れてくる。
　粗熱を取りながら、使った器具を後片付けしていると、水の冷たさが心地いい。仕上げに火照った顔も洗って、一息つく。
　ふと窓の外へ目を向ければ、恵御納夏朝がトシコに、今日はバイトで門限までに寮に戻れない旨を伝えている所だった。
　普段は少しぽわ～んとした印象の夏朝だが、こういう所はしっかりしている。
「僕以外にも、風雲児君や、立井君が一緒だから……」
「男の子が二人居るならイザという時も、安心ね。わかったわ、熱中症にならないように、気をつけてね」
「ありがとう、頑張ってくるね」
　ペコリと頭を下げれば、柔らかなカーブを描いた髪がふわりと揺れる。
　夏朝は強い日差しに警戒して、長袖の服を着用していた。
　頭にも通気性の良い、帽士。鞄には猫柄のかわいらしいハンカチやティッシュ、タオル。
　うだる暑さも一瞬忘れさせてくれる、見目麗しい夏のお嬢さんスタイルである。

　轟は調理場から手を振った。
　気付いて振り返した夏朝は、控えめながら微笑んでくれたように感じる。
「よっしゃ、行くか！」
　轟は手早く荷物をチェックすると、掴んだキャップを頭に被った。

「おはようさん、威勢がいいのう。今日はよろしく頼む」
　轟とはクラスメイトでもある立井駒鳥も、身支度を整えて出て来た。
　グレーの髪を後ろで一つに束ねた駒鳥も、やはりキャップを被っている。
　服装は長袖ジャージ。
「その格好、暑くないの？」
　夏朝は懸念したが、駒鳥は元々暑さに強いらしく、このくらい何ともないようだ。
　道具や飲み物などが入った重い荷物も、日々の鍛錬のお陰で、持ち運びも苦にならないらしい。
「むしろ冷えるのが苦手でのう……」
「そうなんだ」
　夏朝もそうだが、年の割りに落ち着いた彼は、やや浮世離れした空気の持ち主でもあった。しかし今日の仕事に、駒鳥は人一倍の情熱を傾けていた。

「全員が賛同してくれたワケじゃないのが、気に掛かるが……。とりあえず、この時間でローテーションを組んでみるよう、改めて提案してみるかのう」

　駒鳥の案では

　【１】１０－１６時
　【２】１６－２２時
　【３】２２－翌４時
　【４】翌４－１０時

　と、それぞれの時間ごとにメイン見張りを立て、残りのメンバーは自己判断で、休みを取ったりトラブル時のサポートに入れるように、考えられていた。
「ま、皆で力を合わせれば、きっとうまくいくさ！」
「そうじゃな。さて、駐車場と、衛る皆を守るかの！」
「ああ。人助けの一環で受けた仕事だからな、頑張って全力でやりこなしてみせるぜ！」
　分け合えるよう多めに用意した、レモンのはちみつ漬けが入ったタッパーを慎重にリュックに詰めると、轟は夏朝や駒鳥と共に、星ヶ丘の丸田さんの家を目指した。

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