思い出の写真｜リアクション

思い出の写真

【結婚式と記念写真】

　羽生碧南と鷹取洋二が両想いになってから、10年が過ぎた。
　二人は３年前に結婚したものの、碧南はプロバスケ選手として、洋二はヴァイオリン奏者としてそれぞれ忙しく、当時は婚姻届けを役所に提出するので精一杯だった。
　そこで改めて、星ヶ丘の式場で結婚式を挙げることになった。
　その前日。
　碧南は、星ヶ丘の自宅マンションの部屋で、アルバムを広げていた。
（これは大学の卒業式にプロポーズされたあとの記念写真、こっちは入籍の時の写真……。どれも思い出深いものばかりね）
　写真は、シーサイドタウンのあの店、バレンタインの二人の写真を飾っていたあの写真館で撮ってもらった記念写真たちだ。あの時の作品を見て、とても素敵な写真を撮る人だと思った碧南は、以来、特別な機会に洋二と二人で、一緒の写真を撮ってもらっていたのだ。
　店の名前は、『門矢写真館』という。そして今日も――。
「碧南さん、支度できたから、出かけないかい？」
　洋二が声をかけて来る。
「あ、うん」
　碧南は返事して、アルバムを閉じて本棚にかたずけると、立ち上がった。

　二人が向かったのは、シーサイドタウンの『門矢写真館』だ。
「こんにちわ」
「いらっしゃいませ。明日の打ち合わせですね。奥へどうぞ」
　店の扉をくぐると、店主が笑顔で出迎え、二人を奥の応接間に案内してくれた。
　明日の結婚式も、この店主に写真を撮ってもらうことになっているのだ。
　テーブルを挟んで三人で明日の打ち合わせをする。
「それにしても、まさかあなたたちの挙式の写真を、こうして撮らせてもらうことになるとは、あの時には思いもしませんでしたよ」
　打ち合わせがだいたい終わったあと、ふと店主が感慨深い口調で言った。
「もう10年になるんですものね。月日が流れるの、本当に早いな」
　うなずいて言う碧南に、洋二がふむと顎に手をやる。
「あれはいうなれば、『運命の出会い』というやつだねぇ」
「洋二さんったら」
　幾分大袈裟な彼の言い様に、碧南は思わず笑った。だがすぐに、しみじみと付け加える。
「でも、ご縁って本当にあるのかもしれないわね」
　その後、もう少し話して、二人は店主に見送られて店をあとにした。

　翌日は、碧南と洋二の結婚式だ。
　碧南はウェディングドレス、洋二は白いタキシードで、挙式に臨む。
　会場には二人の家族はもとより、友人・知人らが集まって祝福してくれ、賑やかで楽しいものとなった。
　もちろん写真も、打ち合わせどおりたくさん撮ってもらった。
　入場の時の二人の姿や、並んで座る二人。ケーキカットにお色直しなどなど。

　挙式から数日後。
　碧南と洋二は自宅マンションで、式の時の写真を広げていた。
　写真はどれも明るく華やかで、幸せそうな二人の雰囲気がよく出ていた。
　記念写真なのだが、スナップ風のものが多く、一番最後に撮った親族一同の記念写真もみな、気負いのない笑顔で写っている。
「門矢さんって、自然な表情を捕えるのが巧いわよね」
　それらを見ながら碧南が言うと、「そうだねぇ」と洋二もうなずく。
「次に撮ってもらうのは、子供が生まれた時かな」
　小さく笑って呟くように言う碧南の肩を、洋二がそっと抱いた。
「その時が、楽しみだねぇ」
　そう言う洋二の顔にも、優しい笑みが浮かんでいる。
　二人はそっと寄り添い、微笑みながら、写真の中の純白のドレスとタキシードの幸せそうな自分たちを見つめていた。

このページにイラストを設定する