●ＶＳジャイアント剣崎弁当（３）●


【南校舎１Ｆ：生徒玄関前】

「いやぁあああああああああああっ！？」
「モ、モガーーーーーーーーーーー！？」
　仲良く悲鳴を上げる剣崎 エレナと財前 華蓮の２人、
「財前せんぱあああああああああい！！」
　その時だ！　逆光を背に空を跳んでくる、１人の少女の姿を華蓮は見た。
（へっ……？）
　危ういところでよろけつつも、ポテンっと巨人の左肩に着地したその後輩を、お口あんぐりで見返す華蓮、そう、あれは！
「私の憧れの財前先輩と、そのお友達の剣崎先輩を離すアル！」
　畑中 華菜子だ！　３階の教室に並べた机で助走を付けて、この巨大エレナの肩まで飛び移ったのである。何という勇気、何という見上げた後輩魂ッ！
「先輩たち、今助けますアルからネ！」
　そして命綱代わりにしてきたホースを腰からほどくと、詰まりの解消したその口先を、巨人の右腕にぴたりと向ける──至近距離からの、高圧水流。


　ジパンッッ！


　鋭利な水流が、ウォーターメスのように易々とパンの右手を切断する。巨人の口を大きく外れてボヨヨ〜ンと地上に落ちていく、その右手首！
「「って、きゃあああああああああっ！？」」
　そのコブシに握り込まれたままの、エレナと華蓮が揃って悲鳴を上げるが、けれども大丈夫。
　あわや地上に激突の寸前、待ちかまえていた志波 武道と後木 真央が、バレーのネットを拡げて、ぽよよよ〜〜んっとその２人をキャッチ！
　握力を失った巨人の右手から、這々の体で２人が這い出し、こうして華蓮とエレナの脱出が見事成功したのだった。その立役者である華菜子も、ぴょわい〜んとネットでキャッチされて、無事地上にご帰還だ。
「まあ畑中さん、貴女、びしょ濡れじゃないの！」
「夏だから少しぐらい制服が濡れたってへっちゃらアル！
　それより大好きな先輩たちが、助かって良かったアル！」
　えへへ……とはにかむ、そのけなげな後輩に、たまらずひしっと抱きつく財前華蓮だ。
「畑中さん、貴女、とっても格好良かったですわよ！」
「……財前さ……ん？」
　そして剣崎エレナの方も、ようやくパニック状態から脱して、華蓮たちの存在を認識したようだ。
「あなたたちが……私を助けてくれた、の？」
「オーッホッホッホ！　その通りですわ！
　これで剣崎さんに貸し１！　貸し１ですわね！」
　うんまあ華蓮はほとんど、捕まっていただけなのだが。けれども、その高笑いの華蓮につかつかと歩み寄り、「ななな何ですの？」とたじろぐ彼女に、肩を震わせエレナが泣きついた。
「あり……がとう、助けてくれて……
　私、本当に……（ひぐっ）恐かった、から……っ」
「は、はあああ！？」
　人目も憚らず自分の手を握り、泣きじゃくるエレナに、完全に調子を狂わされる華蓮だ。
「べべっ別に！？　好きで剣崎さんを助けたワケじゃありませんわ！
　だって貴女はこの財前華蓮の永遠のライバル……ギャフンと言わせるのはこの私！
　巨人ごときにやらせはしない、そう、ただそれだけのことですわよ！？」
　そのアタフタ愉快な華蓮の様子を横から眺めて、「あーやっぱり財前先輩は剣崎先輩と仲良しアルナー。うらやましーアルナー」と畑中華菜子もニッコニコである。
　と、そこにトテトテと後木 真央がやって来て、
「エレナちゃんセンパイ、これは勿体ないお化けの見せた夢なのだ、
　次の痛弁処理は１－９の真央ちゃんによろしくなのだ〜」
　とアピールし出したので、エレナがいっぺんにキョトンとなった。
「えっ、……ここって夢の世界だったの？」
「ちょっ、後木さんっ！？　横から何を」
「まあ、やっぱり……そうだったのね。
　こんな、私にソックリの巨人なんて、居るはずがないものね。
　財前さんが私を助けるなんてこと、あるはずも無し……
　そうね、夢なら全部納得だわ（スッキリ）」
　さっきまでの泣き顔はどこへやら、いつものプライドの高い美少女っぷりを、晴れ晴れと取り戻すエレナだ。
「ちょっ、剣崎さん！　これは夢なんかじゃありませんことよ！
　忘れないでもらえます？　これで貸し１ですからね！」
「ああ、はいはい（ぞんざいに）
　ふふっ……まったく夢の中でも、ぜんざいカレーさんは賑やかで、見てて飽きないわね」
「何ですの、その上から目線！　ムキーー！」


【校庭（第１グラウンド）】

　けれど、まだ戦いが終わったわけではない。現在ジャイアント剣崎のダメージは、右手首欠損、左足首破損。それ以外はまだ動ける状態にある。
『ぎぎ、……ケンザギ』
　エレナたちの頭上にズゴゴゴゴ……と左手を伸ばし、再び彼女を捕らえようとする巨大痛弁、
「きゃあああああああああっ！？」


　ズシィーーーーーーンン！


　だが突然その巨人がバランスを失い、派手な地響きと共に地上に倒れた！
『ギッ……ギギィ？』
　見れば、その左足首に再び齧り付いて、爆食を再開している後木 真央。くるぶし部分がまるっと削り取られて、巨人が立ち上がれない！
　この隙に３人で逃げ出すエレナと華蓮と華菜子。腹這いのまま振り向いた巨大エレナが、髪をミサイルにして邪魔な真央を攻撃、だがそのホーミングのことごとくを、シパンシパンッ！と待機していた旅鴉 月詠が、スケッチブックに吸収する。ナイスな連携。
「やい、ＧＭＯ剣崎！　お前はもう真央ちゃんが食べちゃったのだ、
　おまじない成就の効果はないのだ！　諦めてみんなの腹に喰われろなのだ〜」
　そして月詠もこの機に乗じて、前に進み出た。
「これで封印を試せる──『ひと』払いができたおかげで、封印効率にも支障は無いはず」
　ろっこん【絵空事】、発動。
　左足首の断面に接触させた絵が、まばゆい閃光を発し、ズズ……と巨人の身体が動く。
　だが……封印ならず。パシュンッとスケッチブックごと接触面から弾かれてしまい、
「むっ……流石にこのサイズ相手には無理だったか」
　今後の彼女の成長次第では分からないが、今はまだ月詠のろっこんに、これだけ巨大な物を封印できる力は無いようである。


　一方、ミサイルとして消費されていく大量のクロワッサンを見送りながら、
「ってうわぁん見てるだけで腹減ってくるぅ！」
　ジャイアント剣崎の正面側で、ぐーきゅる鳴る腹を押さえているのは志波 武道だ。
「せっかく今日のお弁当のご飯、新潟産ネコヒカリだったのにー。
　はっ、そうだ。確かバッグにまだ、俺のまたたびメイトが……（ごそごそ）あった！
　うっし、これで少しでも頭働かせて……って、のわあああああ！？」
　ところが、武道が不用意に取り出したその携帯食糧が、たちどころに巨人の注意を引いてしまった。またたびメイトを奪おうと、横殴りに伸びる巨大エレナの左手、
「危ないっ！」
　そこに駆け付けた栖来 衣夢が、咄嗟に武道を突きとばして地面に転がり、これを緊急回避。
「あっぶな……うっわ衣夢ちゃん、まじサンキュ」
「気を付けて。奴ら、食べ物を見つけると見境なく襲ってくるわよ。
　食堂にあった食糧も、もう奴らの襲撃ですっからかんだったわ」
「そーいや月詠ちゃんも、そんなこと言ってたな……」
　聞けばこの衣夢は、食堂にトマトジュースを探しに行っていたのだと言う。彼女のろっこん【夜の皇女】は、赤い液体を飲むと吸血蝙蝠人間に変身できるというもの。しかしそのお目当ての品々も、巨大風紀委員長に吸収されてしまった後だったらしい。
「ジュースなら、購買部は？」
「そっちも行ってみたけど、駄目だった。
　購買部の方はたぶん、この剣崎先輩の巨人の仕業ね──」
　そこでふと何かに気付いて、じっと巨大エレナを見つめる衣夢。やがて武道に、
「ねえ、よかったらそのまたたびメイト、私に貰えないかしら？」
「おー、腹が減っては戦はできぬ！　でも巨人に捕まらないようにまず離れて……」
　武道から受け取った携帯食品をこれみよがしに振りかざし、逆に衣夢が巨大エレナの前に進み出た。
「ほらここに、あなたの欲しい食べ物があるわよ！」
「Σ って衣夢ちゃん、えーーーーーー！？」
　のーーーんと巨人の腕が伸び、食糧ごとあっさりと、巨人の口に放り込まれる栖来衣夢！

「ってミギャーー！　いっ、衣夢ちゃんが喰われたあああ！？」