●ＶＳジャイアント北風弁当（１）●


【北校舎１Ｆ・廊下】

　さて、いつの間にか別世界に跳ばされているとは、つゆ知らず。お昼休みの食堂へと向かう、少女たちの姿があった。矢萩 咲、毒島 林檎、姫神 絵梨菜の３人だ。
「今日はお弁当を持ってきたのだが、いつの間にか消えていてな」
　銀髪のポニーテールも心なしかうなだれ、２人にそう説明しているのは１年３組の毒島 林檎。
「どうやら今日はお弁当盗難事件という、悪質な悪戯が横行してる様ね……」
　と愛用の竹刀を腰に差して頷くのは、３年風紀委員の矢萩 咲である。
「咲も姉さんから作ってもらった、おはぎお弁当を盗られて大変ご立腹なんだ！」
「何それ美味しそう」
　甘いものには目がない林檎の、お腹がぐーと廊下に鳴り渡る。ちなみに咲の姉はシーサイドタウンで和菓子屋を営んでいる。そのおはぎの味を想像して、我が事のように憤る林檎。
『もう！　食べ物の恨みは恐ろしいんだよ！　激おこぷんぷん丸なんだよ！』
　んっ？　目の前のクールビューティな少女から可愛らしい声が漏れ聞こえてきて、顔を見合わせる咲と絵梨菜。どうやらこの林檎、心の声が無意識に出てしまう癖があるみたい。
「うう……犯人見つけたら絶対に叱ってやる……それにしてもお腹すいた……」
　ちなみにその林檎の消えた弁当、重箱２個分あったことは抜群に秘密だ。
「そうね、犯人を一刻でも早く見つけて、咲が成敗しなくては！」
　竹刀片手にメラメラと憤る風紀委員、その隣りで１年チア部の姫神 絵梨菜も、
「私が貰ったおまじないのお弁当も、いつの間にか無くなってたんだよ！
　もー！　お昼休みに食べようと思って楽しみにしてたのにー！」
　ツインテールの大きなリボンを揺らして、ぷんすか怒っている絵梨菜に、
「ん？　おまじないとは何だ……？」
　と矢萩咲がいぶかしげに訊ねる。
「知らないの？　恋の相手と両想いになれるっていう、最近ウワサのおまじないだよ☆
　朝来たら机の中に、私の顔が描かれた可愛いお弁当が入ってたの♪
　てことは誰かが私のこと……やーん、どうしよー♪」
　身をよじって満更でもなさそうな絵梨菜に、顔を見合わせる咲と林檎。チアリーディング部で活躍する絵梨菜は、おもに体育会系の部員たちにファンが多い。そんなスポーツ少年の１人が、彼女の机にお弁当を忍ばせたのかもしれない。


【北校舎１Ｆ・学食跡】

　ところが、そんな３人がお腹を空かせてたどり着くと、食堂は完膚無きまでに破壊されていた。
「なん……だと……？」
　慌てて毒島 林檎が調理場を覗けば、冷蔵庫まで無惨に引っくり返され、寸胴鍋やフライパンの中身も全て空っぽだ！
「やーん、食べ物が何にも残ってない！　ねえ、ちょっとコレどういうこと？」
　食堂の隅でガタガタと震えている十数人の生徒を見つけ、駆け寄る姫神 絵梨菜。すると、顔見知りの体育会系部員の１人が、悲鳴まじりに外の中庭を指さした。
「あっ、アイツがこの食堂中の料理を、全部食べちゃったんだよぉ！」
　散乱するガラスを踏み、テラス席の方へと走る矢萩 咲、アッと見上げればそこに立っているのは、
「って、あれって北風さん！？」
　我らが風紀委員会の委員長、北風貴子（の痛弁）だ！
「そんなに大きくなって……な、何やってるんですか！！」
『ええー！？　なんであんなに大きい人が！？』
　同様に心の声をだだ漏れさせながら、呆れて中庭に立ちすくむ林檎、
　するとゴゴゴゴ……何かを見付けたのか、ジャイアント北風が中庭を移動し始める。


【北校舎・風紀委員室】

「い、いいんちょがでかくなってるぅぅぅ！」
　バタバタと白衣のスソをはためかせながら、廊下を走ってきた伊賀 解理は、風紀委員室へと転がり込んだ。
「と思ったら（比較的に）ちっちゃいいいんちょも、ここにいるぞ？」
「な……」
　書類の山を前に呆気に取られていた北風 貴子が、バンと机を叩いて立ち上がる。
「何です、騒がしいわね！　（指突きつけ）伊賀さん、校内では静粛にと……」
　その背後の窓が、日が落ちたように突然陰り、


　ドガッシャーーン！


「危ない、いいいんちょ！」
　窓ガラスの砕ける音よりも一瞬早く、解理が風紀委員長に抱きつき、そのドリルを避ける。
　そう、ドリルだ。ズゴゴゴ……と身をかがめて、今自分の破壊した室内を覗き込むジャイアント北風、その胸部でちゅわいーんと回転しているのは、２個の巨大なおにぎり。そのピラミッドおっぱいを猛スピードで回転させ、ドリルな破壊力で校舎の壁を砕いたのである。
「ああっ、僕のお気に入りの白衣に穴が！」
　かすめただけでズタボロになっている、白衣を見てぼやきながら、
「おのれ何という胸部装甲」
　ぐぬぬ……と外の巨大委員長（の主に胸部分）をガン見する解理さん。
「なっ……（お口ぱくぱく）何なの、あの化け物は！」
『ギギィ、ゼ……？』
　その貴子めがけてギャルギャルギャルッと再び炸裂するドリルおにぎり、間一髪で彼女を立たせて廊下へと走る解理、その背後で砕かれた床が、ガラガラと崩落する！
「まっ、まるで状況は分からんが、ともかくいいんちょを助けなければ！」


【中庭】

「キャーーーーーー！？」
　姫神 絵梨菜たちの見ている前で、いきなり北校舎を破壊し始めるジャイアント北風、
「なん……だと……？　しかもまだ、校舎に取り残されている人達が！？」
　テオが無差別に召喚した生徒なのだろう、パニックになった数十人の学生が、破壊されていく教室の中をアリのように逃げ回り、あるいは窓にぶら下がって悲鳴を上げたりしている。
「助けなければ！」
　マフラーをなびかせダッと走り出す毒島 林檎、それを追うように矢萩 咲も、スチャッと竹刀を抜いて、巨大委員長の足許へと急行する。するとその真下では、すでに先行して巨人と戦っている１人のオカマ……いや男子生徒がいた。
「風紀委員長が狙われてるっぽいのよ、協力して！」
　尾鎌 蛇那伊だ。その声に咲が校舎を見上げれば、崩落していく廊下の奥に、白衣の少女に手を引かれて逃げていく、見覚えのある背中が見えた。
「北風さん！　風紀委員長の貴方が何を風紀を乱しているのですか！
　即刻、あの大きいのを止めてください！」
　と叫んではみたものの、この距離では聞こえたかどうか。逆に、先刻から自分の足を攻撃している尾鎌をうるさがり、虫でも払いのけるように、その手で地面を薙ぐ巨人。
「きゃっ、危っぶな！」
「Σ なんか攻撃してきた！？」
『とりあえず、気を逸らさないと！』
　そう言うなりもう片方の足を、手にしたバットで滅多打ちし始める林檎、
「全く……お弁当盗難騒ぎの次は巨人騒動ってどういう事だ！
　いい加減、咲も我慢の限界だ！」
　怒りに燃える咲も竹刀で参戦、そしてこの２人の助けで、ようやくひと息つくことができた尾鎌は、呼吸を整え、体内で気を練り上げて身体を戦闘モードに切り替える。
（う〜ん、これだけ巨大だと急所を狙うとか無理そうね。
　生き物ですらないから急所があるかどうかもわからないけど……）
「ここは一つ、足許から崩していくわ！」
　と豪快にラリアットやドロップキック、至近距離からの突きや蹴りの連打で巨人を攻め始める。
「うん、普段は隙が大きくて使えない、動作の大きい攻撃方法も存分に使えるわね。
　巨体の踏み付けも、足を振る動作にさえ気をつけていれば問題な……あら？」
　おや、その鋼のような拳で削りまくっていた巨人の足首から、何だか見覚えのある人型が……？
「って、利平ちゃんじゃないの！？」
　ミイラのように直立するそのゴハンを慌てて掻き分けると、中からヨロけ出てきたのは、
「ぷはっ……！　し、死ぬかと思ったぜ！」
　握 利平だ！　ジャイアント北風に踏み潰されたはずのあのエロ少年、足の裏のゴハンを突き抜け、ここまでずっとその足首に生き埋めになっていたのである！
「そいでもって聞いてくれ、北風先輩はやっぱり白のノーマルだったぜ！
　へへ、見えない所の風紀も、しっかりと守ってやがる……」
　ビシッとサムズアップで、巨大委員長のパンツ報告も忘れない握に、
「もう、男ってホント馬鹿ね！」
　まあともかく、その生還を喜ぶ尾鎌だ。


　と、その時だ！
　ジャイアント北風が破壊する北校舎の、もう半分を突き破って、
　ドバッカーーーーーンン！
　ゆらり……と粉塵の中に出現する、もう１体の巨大ロリ巨乳美少女がっ！
「ちょっと、やだ、あれって！？」
　あんぐりと口を開ける尾鎌 蛇那伊、そして少し離れた中庭で、ぴょんぴょん脳天気に跳びはねているのは、あの姫神 絵梨菜だ。
「やーん、絵梨菜そっくり☆　つやつやぷるぷるなたまご肌〜♪」

　巨大ミニスカチアガール──第３の巨大痛弁の出現である。