[TOS] 戦蘭の世紀｜リアクション

[TOS] 戦蘭の世紀

　どうせそんなこったろうと思った。
　内心、陣は肩をすくめた。
　大量のガーナックを巻き込んで、自分の過去をチャラにしようというのか。だけど、それはあまりに安っぽい贖罪の仕方だ。
　だからラムと示し合わせておいた。陣は声を上げる。
「ラム、フリーズだ！」
　ミオとて、ラムがこのような行動に出るとは予想していなかっただろう。ミオの背後に回っていたラムが、躊躇なく大量の冷凍光線を吐き出した。ミオの全身はたちまち硬直し、ネクタイまで霜に覆われる。彼女の表情は、驚愕と怒りが交錯したまま凍りついた。
「誰か……手を貸して」
　ラムの小さな声に応じたのは英二だ。「ごめんなさい」と詫びながら、ミオの体を背負う。リオが素早くワイヤーを抜き、サツキと手分けしてミオの体を、英二の体にしっかりとくくりつけた。
「でも、陣……本当に大丈夫なの……？」
　ラムが不安げに陣に尋ねる。だが陣は穏やかに笑った。
「信用したってや。僕の殞脈（エンミラ）なら、きっちり十秒、超高速になれる」
　ブラスターガンを握り直して陣はつづける。「爆風より速く走ればいいだけ。まあ、ギリってとこやろうけどな」
「だめ」
　ラムが震える声で告げた。
「だめ。私も、陣とここに残る」
　彼女の瞳には強い意志があった。だが、陣はふっと表情を緩め、優しく首を振る。
「誰も死ぬ必要はないんだ。もう、これ以上。もちろん僕だって死なない。だからな、ラム、いい子にして先に行ってくれ。あとで会おう、約束や」
　ラムは唇を噛み、涙をこらえてうなずいた。ターヤがそっと彼女の手を引き、地下通路へと導いた。ガーナックの足音が近づいている。もう時間がない。メンバーは次々と地下に消えていく。
　最後に楓が陣を見つめ、告げる。
「守ってね、あの子との約束」
　楓の瞳には、わずかながら信頼が宿っていた。
　ハッチが閉じる音が、廃墟に小さく響き、静寂が一瞬訪れる。
　陣は一人、スーパーマーケットの中央に立ち、腕時計のタイマーをセットした。
「さて……あと五分か」
　だが静寂はすぐに破られた。量産型ガーナックが押し寄せてくる。無数の足音が地響きとなり、青い光が死の星々のように近づく。陣はブラスターを構え、苦笑いを浮かべた。
　五分、つまりあと三千秒耐え抜いて、最後にありったけのブラスターを床下にぶち込む。
　……でも僕、あと五分、生きられるかな。
　はは。
　怖いのに、なんだか笑えてきた。

　地下通路の冷たいコンクリートに背を預け、レジスタンスのメンバーたちは息を殺していた。
　狭い空間に響くのは、各自の荒い呼吸と、遠くで響く地響きだけだ。
　ハッチを閉じた瞬間から、誰もが時計の針を意識していた。あと数秒で、メテオボムが炸裂する。
「あと……五、四、三――」
　英二が小さくカウントダウンをつぶやく。ターヤが彼の腕にすがり、ラムは目を閉じて震えている。サツキとリオは身を寄せ合い、目を細めて天井を見つめる。楓だけが、無表情でハッチの方向を見すえていた。
「二、一」
　轟音が地下通路を揺らした。
　天井から小石がパラパラと落ちてくる。これほど離れた地下通路だというのに、気温が一気にあがったのがわかった。
「出てみよう」
　梯子に飛びついて、地上に出るハッチをリオは押し開けた。
　小高い丘の上だった。この場所からも、十分に街の様子は見えた。
　爆炎が夜空を赤く染め、廃墟の街に不気味な光を投げかけている。ガーナックの断末魔の電子音が、爆音に混じって遠くから聞こえてくる。無数の青い光が、炎の中で消えていくのが目に見えるようだ。
　すごい、と言ったまま絶句する英二の手を、黙ってターヤが握った。指と指を絡め合うようにして。
「成功……だね」
　サツキがぽつりと呟く。彼女の声には、安堵と同時に何か重いものが宿っていた。隣のリオが、彼女の肩にそっと手を置く。
「うん。ミオの作戦、完璧だった。あの数のガーナックを一掃できたんだから」
　リオの声は明るく振る舞っているが、どこか疲れがにじんでいる。
　英二が背負ったままのミオは、まだ冷凍光線で凍りついた状態だ。ラムがそっと彼女の顔を見つめた。
「……陣、大丈夫かな……？」
　その言葉に、誰もが一瞬目を伏せた。爆発の規模からして、生き残るのは至難の業だ。
　ターヤがラムの手を握り、元気づけるようにほほえむ。
「陣くんなら大丈夫なのです！　約束したんだから、きっと！」
　爆発の余韻が収まり、遠くで燃え盛る炎の音が聞こえる。
　来た道を戻る。今度は地上を。

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