少女たちが歩いている。
集団をなして歩いている。
……だが本当に少女なのか。
全員がボブカットの髪、つややかな肌、ぴったりしたジャンプスーツのシルエット。顔立ちは寸分たがわず同じ、十代の少女を思わせる姿形だ。だが、瞳には何も映らない。表情もない。感情すら持たない。髪も服も肌ですら、くすんだ灰色一色だ。塗装前のフィギュアのように無機質である。唯一の色彩は、首筋に埋め込まれた
服従回路(Y.E.S.S.I.R.)の青い光だけだった。
彼女たちは
ドクター・シザクラが生み出した殺人アンドロイド──
ガーナックと呼ばれている。かつての暦が終わり、
殞暦(いんれき)二六年と呼ばれる現在、ガーナックはシザクラの鉄の支配を体現する存在である。灰色の量産型は、反逆者を狩りたてる無感情な刃だ。
山岳の廃墟都市が近づくと、百近いガーナックは数体ずつに分かれ、個別行動へ移った。
うち一体から電子信号が放たれた。
短い文章だ。翻訳すれば、『反乱者の拠点を捜索開始』となる。
切り立った岩肌に囲まれ、かつて中規模のにぎわいを見せた都市は、崩れたビルとひび割れたアスファルトに埋もれている。冷たい風が枯れた木々を揺らし、月光が廃墟を白く染めた。
数ヶ月前、レジスタンスは壊滅的な打撃を受けた。仲間は散り、希望は砕けたかに見えた。
だが、いまだ叛乱の炎は絶えてはいない。シザクラと戦うための
殞脈(エンミラ)も。
この場所はかつてスーパーマーケットだったが、売り物のほとんどは持ち去られ、剥がれ落ちたラベルや、炭のようになった食材のなれの果てしか残っていない。腐敗臭も黴臭さも過去の話、残るはせいぜい、枯れ草に似た匂いに過ぎなかった。
暗い通路の中央に、
大黒 ミオは立つ。
黒いプリーツスカートとシャツ、ストッキングもブーツも黒、長い黒髪は闇と同化していた。白い肌が月光に映え、凛とした顔立ちは鋭い。白基調のネクタイが、彼女唯一のやわらかなアクセントといえようか。背が高く、革ジャケットの肩は硬い。
しかし異様な外見ではあった。ミオの右肘から下は、長い刀なのだから。
数年前までミオは
蘭紋(オーキッド)ガーナックだった。当時の名は
ガーナックΟ(オミクロン)。戦闘に特化した、ギリシャ文字持ちの『蘭付き』である。シザクラの忠実な兵器だった彼女だが現在は、服従回路のくびきから逃れ、レジスタンスの中核メンバーになっている。
ミオは屈むと一刀両断した量産型の首筋に刃先を突き立てた。服従回路の青い光が砕け、沈黙する。
すでに彼女たちへの同族意識はない。せいぜい、人形の電源を切った程度の感慨しか抱かなかった。
残存メンバーがどれくらい集まるか……祈るがごとくミオは思う。
メッセージが届いていればいいが。
月光がガラスの破片を照らし、彼女の影を長く伸ばした。
廃墟の坂道を
ターヤ・トイヴァネンは軽い足取りで進む。オレンジの髪が揺れ、前髪の合間からときどきつぶらな瞳がのぞいていた。
「このまま例のスーパーまで一直線、なのですよ~!」
無邪気な声が岩の反響に消える。
「こ、声が大きくない?」
同行の
佐藤 英二は警戒するのだが、「どうせもう気づかれてるのです」とターヤは気楽だ。
彼女も元は蘭紋ガーナック、当時は
Τ(タウ)と呼ばれていたのだが、英二と出会ったことでY.E.S.S.I.R.をみずから外し、自分の人生を選ぶようになった。
独特のオゾン臭が英二の鼻をついた。
「ほらね」ターヤはにっこりする。「言ったとおりなのですよ~」
坂道の影で、灰色の少女型アンドロイドが動く。少ない数ではない。十体はいようか。ぞろぞろと出てくる。
ターヤが両手を胸前で交差させる。両手に高熱を宿すための予備動作だ。
「シザクラのワンコちゃんが登場、なのです! 英二くん、準備OKなのですか?」
うなずいて英二は
魔法(ノクスラ)の詠唱を開始した。
「『蘭付き』はいない。大丈夫、いけるよ」
こちらは二人きり、多勢に無勢もいいところだが、ターヤと一緒であれば負ける気はしない。
「いい感じ、なのです! よーし、ターヤちゃんの実力、見せつけてやるのですよ!」
異なる時代、異なる世界、無情の世界の物語が幕を開けた。
この夜、戦蘭の世紀が動き出す──あなたの行動で反撃の胎動を刻め!
桂木京介です。なんだかいきなりなシナリオガイドでしたが、たくさん出てくる謎の固有名詞は読み流しちゃってください。
せっかくのオーバータイムということで、『らっかみ!』本編とよく似ているけど似ていない、別ユニバースのシナリオをやりたいと思います。
佐藤英二様、ガイドへの登場ありがとうございました。
ご参加の際は、シナリオガイドにこだわらず自由な設定かつ内容のアクションをおかけください。お待ち申し上げておりますー!
この世界観をもとにしたプラシナの申請をいただいてますが(公開が遅れて申し訳ありません)、そちらは本シナリオとは別に後日公開する予定です
概要
本作は、普段の『らっかみ!』とは全く異なる世界のお話です。
といっても実際は、『らっかみ!』劇中で流行しているコンピューターRPG『Tales of the Sky』(略してTOS)のなかの物語なのですけれども。
あなたの『らっかみ!』キャラが自分の分身をTOSに参加させている、全然別のXキャラ的な存在が参戦する、TOS世界に生きる並行世界の自分を描く……などなど、参加方法は問いません。うっかりゲーム内に取り込まれてしまった! というのだってもちろんウェルカムです! あなたらしい登場を楽しみにお待ちしております!
世界観と話の流れ
いわゆるディストピアSFといっていいでしょう。26年前のある出来事により、この世界はドクター・シザクラという狂気の科学者が作り上げたアンドロイド(ガーナック)軍勢に支配されています。反抗する勢力はあったのですが、残念ながら少し前に壊滅的な打撃を受けて散り散りになり、現在に至りました。
……実はこの程度しか作っていません(汗)。なので参加者の皆さんには、世界観構築にもご参加いただきたいと思っています。
レジスタンスのメンバーとしてシザクラの追手から逃れ、他の仲間との再合流を目指す、というのがアクションの基本的な流れになります。本作ではレジスタンス側のキャラクターしか扱えません(シザクラ側は不可。たまたま通りかかった等の理由でレジスタンス側に加勢するのは大丈夫です)のでご了承ください。
アクションについて
『ここまでのあなたの半生』そして『どうやってこの危機的状況を打破しようとするか』、このふたつをアクションで示して下さい。簡単な内容で構いません。その両方を膨らませて一本のリアクションに編みこみたいと思っています。
なお、本作は通常とは異なる世界のお話なので、『死亡ないし再起不能』『悪堕ち』『意外な正体』などのアクションも問題はありません。そういった希望があれば記載をお願いします。話が破綻しない範囲であれば、できるだけご希望に応じられるよう努めます。
シナリオの扱いについて
本作は[TOS]シリーズという形態をとっています。
最低でもあと一作は行う予定ですが、以後の展開については未定です。
とりあえず本作ではあなたのキャラを知りたいと思っています。どんな登場になるのか、いまからわくわくです。
ろっこんについて
登録している『ろっこん』でも未登録のものでも使用可能です。ただし本作ではTOS独自用語として『殞脈(エンミラ / Enmira)』という呼称を使います。魔法についても使用可能です。こちらも本作では『魔法』と書いて『ノクスラ / Noxra』と読みます。
ふだん『ろっこん』のないキャラクターであってもTOSオリジナルのエンミラやノクスラを使うことができます。戦闘に特化したものにしておくと話が楽かもしれません。ただしゲームバランスを崩壊させるようなもの(身長五十メートルの鋼鉄ロボットに変身して暴れる、など)は内容を修正させていただく場合があります。
NPCについて
本筋『らっかみ!』内のNPC、あるいはそのインスパイアキャラクターも別のかたちで登場しています。
○大黒ミオ
ビジュアルイメージは鈴木 冱子。レジスタンスの中核メンバーです。元は兵器型ガーナックで、腕は仕込み刀、膝にはロケット砲など、全身に凶器が内蔵されています。
○ターヤ・トイヴァネン
この世界版の野々 ののこです。ミオ同様人類側に立つガーナックであり、両手の温度を急上昇させ鉄を溶かせるほど熱くするヒートハンズという特殊能力を使います。
●ガーナックΕ(イプシロン)
この世界版の風の精 晴月です。風を自由に操り空を飛ぶ能力を持ちます。服従回路(Y.E.S.S.I.R.)が体のどこかに埋め込まれており、自我はほとんどありません。ガイドには未登場ですが、強敵として皆さんの前に立ちはだかります。
○綺生 煌牙
レジスタンスメンバー。元は明るい性格だったようですが、多くの仲間を喪ったことにより、陰鬱な影を引きずるようになりました。特殊な能力はなく、銃器で戦います。元はこのキャラ。
※参加PCが少ないときの予備要員です。枠一杯なら出さないか控えめな登場になる可能性があります。
他のNPCについては自由です。敵として出てくるかもしれず、味方で登場してもいいでしょう。
出してほしいNPCがいれば、あなたの裁量で自由に指定してください。※文字数の関係上1~2人までにしていただけると幸いです。構成上リクエストに応じられない可能性もあることをご了承下さい。
用語解説
『Y.E.S.S.I.R.(イエッサー)』
アンドロイドガーナックを制御する装置(Yielding Electro-Systema for Subservient Imprinted Regimenの略)。劇中では『服従回路』とも呼ばれます。量産型ガーナックは破壊されると活動停止に、蘭紋ガーナック(後述)は自由意志を持つようになりますが、行動不能になるとは限ります。
『蘭紋(オーキッド/ Orchid)』
ガーナックΕやガーナックΟのようにギリシャ文字を持つタイプのガーナックを指します。量産型とは異なり独自の意思と特有能力があります。といってもY.E.S.S.I.R.の制約があるので基本的には敵です。劇中では『オーキッド』『蘭つき』等で呼ばれます。
ΟとΤは例外的に人類側に加担していますが、基本的には敵、それも幹部クラスの強敵です。
『殞脈(エンミラ / Enmira)』『魔法(ノクスラ / Noxra)』
上述のようにPCも保有できる特殊能力です。本編の『ろっこん』から引き継ぐもよし、ちょっとアレンジするもよし。なくたって大丈夫です。
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それでは、あなたのご参加を楽しみにお待ちしております!
次はリアクションで会いましょう! 桂木京介でした!