R&R Journey：密林のルーインズ＜前編＞｜リアクション

R&R Journey：密林のルーインズ＜前編＞

　プロローグ～三折部朝衣の不運

　インドネシア。
　日本から約5,700kmほど南方、飛行機で約７時間半の距離にあり、時差は二時間以内。ジャワ島、スマトラ島、カリマンタン島、スラウェシ島はじめ、日本人にも人気の観光地であるバリ島など、約1万7,000もの島々からなる世界最大の島嶼（とうしょ）国家である。
　赤道直下ゆえにいわゆる常夏。雨季と乾季こそあるものの、平均気温が２５℃を下回ることはない。
　人々の暮らしは穏やかで、スマホや自動車などの文明機器も普及してはいるけれど、まだ素朴な村や田畑や土着の信仰も残っていたりする。四角四面の忙しない暮らしに飲まれて息苦しくなっている現代人は、そんなに急いでどこへ行くのかと問いかけてもらいに、この国へやってくるのだろう。
　美しい海。
　緑のジャングル。
　色鮮やかな鳥や魚が舞い泳ぎ、動物たちが豊かな森を闊歩する。
　人類が夢見る南国の楽園――そう呼んでも、あるいは差支えないのではなかろうか。
　
　婚約者である住沢遥人とともに旅行に来ていた寝子島町役場勤めの三折部朝衣は、そう思っていた。
　ほんの、昨日まで。

「あたしたちのお財布が……二人ともスられるなんて」

　がっかりを通り越して、笑うしかない。
　朝衣と遥人の財布は、道中のどこかでスリにあってしまったのである。クレジットカード類は即座に使用停止の処置を取り被害届も出したものの、返ってくる見込みは薄いね、と現地の人には苦笑いされた。
　旅行気分はもちろん台無し。お金もなくてどうしたものかと途方に暮れていると、ふたりが泊まっていたホテルのおじさんが「トモダチがとある島に渡ってくれる人手を探しているらしい、報酬は弾むらしいからお金がほしいなら話を聞いてみたらどうか」と紹介してくれたのが、バリ島でゲストハウスを営むグデとその宿に逗留しているリンコ・ヘミングウェイであった。
　そう……ホテルのおじさんは教えてくれなかったのである。
　その島が、現地の人々は行きたがらない『魔女の島』と呼ばれる場所であることは――。

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