【猫の島にて】

　今日も開店。猫カフェ『COZY CAT'S』！
「こんにちは、店長さん。また来たよ～」
「あ、いらっしゃいませ！　今日もばにらちゃんでよろしいですか？」
「うん。ほかの子も気になるけど、やっぱり仲よしのばにらちゃんで！」
　万条 幸次がOPENのプレートをくるりひっくり返したとたん、お客さまがご来店。そわそわとしてお店の中を見回すと、すてててて！　白い毛並みのふわふわにゃんこがその腕の中へ飛び込みました。
「ばにらちゃん！　今日もかわいいね～、元気してた？　うんうん、私も会いたかったよお～！　今日もいっぱい遊ぼうね♪」
「ふふ……ごゆっくりどうぞ」
　にゃんにゃかふにゃん。ごろごろにゃん、とたわむれ始めたお客さまを席へご案内して、幸次はにゃんこたちのお世話をば。
　『COZY CAT'S』に暮らす猫ちゃんは、全部で７匹。どれもみんな元気いっぱい、健康で毛並みもつやつやです。
　幸次が猫カフェを開店して、ちょうど１年ほどが経ちました。大学卒業後、長い間ペット用品を扱う企業にて働いておりましたけれど、独立して、念願だったこのお店を始めることができました。
　開店に当たっては、学生時代にお世話になった保護猫カフェの代表、鈴木 冱子の助力もありました。『COZY CAT'S』の猫ちゃんたちも、そのほとんどがもとは保護猫です。飼い切れなくなって手放されてしまったり、ずさんなブリーダー施設が倒産したことで行くところのなくなってしまった子を引き取ったり……出自はいろいろで、はじめは懐いてくれず暴れまわったり、怯えてケージから出てこない子もいました。先ほどの白猫、ばにらちゃんもその一匹です。
　それでも幸次があきらめず献身的なお世話を続けたおかげで、今ではああしてにゃんにゃかふにゃん。人間に心を許して、甘えてくれるようにもなりました。幸次の努力のたまものというわけなのです。
「さて、動画撮影でもしようかな。花遊、出番だよ」

にゃーん
　今ではシニア猫となった花遊ですけれど、まだまだ元気。健在です。お店の真ん中が彼の特等席で、どんと鎮座してボス猫よろしく店内を見回しております。最近は昼寝ばかりしていることが多くなったものの、『COZY CAT'S』の看板猫としてこれからもお店を引っ張ってくれるでしょう。
　そしてなにより、Mewtube動画でのウケの良さ！　日頃から猫たちの愛らしい姿や、飼い猫の日々のケアを解説動画として配信したり、これが『COZY CAT'S』の重要な収益となっていたりしますけれど、やんちゃに動き回ったりにゃんにゃん甘えたり、動画映えを忘れない花遊はいつだって視聴者に大人気なのです。
「ほら、撮るよー花遊。ってこら、じゃれない！　遊ばない！　今日は爪切りのやり方を解説するんだから……ははは、しょうがないなあ」
　にゃあ、うにゃあ。もちろんそんな様子も動画に収めて、視聴者サービス。花遊ももはやいっぱしのMewtuberなのでした。にゃふん！



　正直言いまして、大盛況！　というほどではありません。新しいお客さまが続々とやってくるわけでもなく、こうしてどうにかお店を続けていけるくらいの売り上げを保っていられるのはひとえに、いつも来てくれる常連さんの存在があってのことです。
「幸次くん、へろー！　ばっひゅーんと来たよ～」
「あ、野々さん！　いらっしゃ」
「花遊ちゃーーーん！！　元気にしてたかにゃー、よーしよしよしよしよし！　よおーしよしよしよしよし！」
　うなあああ。野々 ののこもそのひとり。ことに花遊がお気に入りな彼女はたびたびやってきて、長い時間を過ごしてくれました。花遊もすっかり懐いているし、幸次も売り上げが伸びてほくほく。なのはいいとして、卒業から１０年が経った今、彼女がなにをしているのかと言いますと……「それはヒミツー」となんだかはぐらかされてしまったもので、それ以上は聞いていなかったりします。なにか割りの良いお仕事を見つけたか、ふらふらしていてもやっていけるような裕福なパートナーを見つけたのか、そこんところはよくわかりませんけれど、ともかく、ありがたい常連客であるのは確かです。
「幸次くん、今日は動画撮影した？　もう終わっちゃった？」
「あ、うん。さっき終わったけど」
「そっかー、残念！　今日こそいっしょに映っちゃおーと思ってたのに！　にししっ」
「はは、それは次の機会にね」
　ねこじゃらしフリフリ、うにゃうにゃと遊び始めたののこちゃんともう夢中な花遊を微笑ましく眺めて、幸次は目を細めます。
　思えば今こうして猫カフェのオーナーなどやっていられるのは、目の前のののこのおかげ。とも、ある意味言えたかもしれません。高校生の頃、あのはちゃめちゃで楽しい学校生活やトラブル、事件の数々、つまり神魂にまつわるフツウやフシギな日々がなかったなら、幸次はもしかしたら別の道へ進んでいたのかもしれません。幸次に道を決めさせてくれたのは、ろっこんで猫と会話し、自らも猫になって、花遊とも深く絆を築き……あの頃の思い出があったればこそなのです。
「そーれそれそれ、こっちだよー花遊！　今度はこっち、いやいやこっちだー！　と見せかけてこっち！」
「ふふ……」
　なにも知らない、ちょっとおまぬけで憎めない神さまに、感謝。
「野々さん、写真撮らせてもらっていい？　掲示板に、他の子たちの写真といっしょに張ろうと思うんだけど」
「もちろんいいよー！　めっちゃくちゃ仲いいところ、見せつけちゃおうね花遊ちゃん！　にっしっしっ」
　にゃうっとジャンプ、ののこの腕の中に花遊がスポンとおさまったところで、ぱしゃり！
　にっこり満面の笑顔を花遊の肉球がぷにっとするナイスなツーショットは、きっといつまでも、いつまでも、素敵な思い出。