【クリスマス】ポムポムトナカイと気まぐれサンタのクリスマス｜リアクション

【クリスマス】ポムポムトナカイと気まぐれサンタのクリスマス

◆特別な夜と遊覧飛行

　綾辻綾花と早川珪は腕を組みながらデートを楽しんでいた。反対側の手には食材の入った買い物袋を提げている。

（このあとは珪さんの部屋で料理ですね。何を作りましょうか）

　メニューを頭のなかで考えていると視界に何かが過ぎった。

（あれ？　なにか風船のような、トナカイのような……）

　よく見ると風船みたいな体で、ぬいぐるみのようなデフォルメをされたトナカイだった。ポムポムと跳ねるように歩きながら２人のほうにやってくる。

「可愛いですね」
「ああ」

　人なつっこいようで、綾花たちに寄り添うように立ち止まる。その体に触れて撫でると、柔らかく気持ちいい感触が伝わってくる。トナカイは大人しく撫でられていたが、ふと買い物袋に視線を移す。

「お腹が空いているんでしょうか？」
「そうかもしれないね」
「なにかあげられそうなものは……」

　買い物袋のなかを確認する。おそらく気になっているのは野菜だろう。トナカイが食べるものは分からないが、ニンジンなら食べてくれるかもしれない。

「食べますか？」

　袋からニンジンを取り出して差し出すと、トナカイは少し様子を見てから噛り付いた。それから美味しそうにパクパクと食べ進める。綾花の分を食べ終えても、まだ物足りないように見えたので珪先生もニンジンを差し出す。そちらも迷いなく食べ始めてあっという間に食べ終えた。

「すごく美味しかったみたいですね」

　ほっこりした気持ちでいると、トナカイが背中を２人に向ける。

「乗ってほしい、という意味じゃないかな」

　珪先生に促されて綾花はトナカイの背に乗った。続いて彼も乗るとトナカイはポムポムと何度か跳ねたかと思うと、そのまま宙へ舞い上がった。最初は２人とも驚いたが、トナカイが安定して遊覧飛行をしているうちに空からの景色を眺める余裕が出てきた。
　とはいえ上空は地上よりも寒い。綾花は珪先生の背中にぎゅっとしがみつく。

（ドキドキするのに安心する……）

　それは珪先生の優しさが伝わってくるからだとはっきりわかった。

「綺麗ですね」

　周りが星に囲まれて、下には家が小さく見えている。雪もちらちらと降っていて、ホワイトクリスマスだ。雰囲気も相まって、綾花は珪先生に好きの気持ちを込めた甘いキスを贈る。空の上だから誰も見ていないですよ、と綾花はそっと呟いた。

「珪さん、メリークリスマス」
「メリークリスマス」

　今度は珪先生からキスをしてもらえたら、と密かに願う。トナカイが地上に戻ると、２人はそっと降りて礼を言った。それから珪先生の家に行き、温まるシチューを作った。

「珪さん、クリスマスプレゼントです」

　そう言ってプレゼントを手渡した。珪先生が一言断ってから包みを開けると、彼が好きな作家のサイン本だった。

「ありがとう。僕からは、これ」

　クリスマスのラッピングが施された箱を手渡す。中身は猫のイラストが可愛いマグカップだった。

「ありがとうございます。大切にします」

　綾花の微笑みを珪先生は静かに見つめていた。

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