海上学園都市ネコトピア　うみねこ大図書館の秘密の扉｜リアクション

海上学園都市ネコトピア　うみねこ大図書館の秘密の扉

【ウワサ】

　秘密の扉、だなんて。わくわくどきどき、胸が弾んでしまうではありませんか。
「そういえば、ミラちゃんはそもそも、どこでそのウワサを聞いたんですか？　誰かに聞いたんですか？」
「え？　ええっと。それは、そのう」
　もごもごっと口ごもった白猫ミラの照れくさそうなお顔に、ははーん。綾花は、ぴんときました。
「テオに聞いたんですね？　ミラちゃん」
「それは、はい。その……そういうことで、あっ、綾花さん！　にやにやしないでください～！」
「ふふ……」
　海上都市ネコトピア、そこはにゃんことおさかなの楽園。どういう経緯か、両者ががっちり手を組んでつくりあげた、海の上のユートピア。
　この街にはたくさんのねこが住んでいて、ふにゃふにゃのほほんと暮らしておりますけれど、そこへいくとあのテオという灰白猫は、なんだかいつも仏頂面。ご機嫌ナナメってな感じでツンとしているのですけれど、ミラに言わせればそこがイイ！　のだとか。
「そりゃあええ、テオさまのグリーンの瞳、きりりと結ばれたお口も、形のいい肉球もしなやかなしっぽも、みんなみんな素敵ですけれど」
「あ、うん。そうですね」
「あの瞳にじっと見つめられたら、メス猫はひとたまりもなくやられてしまいますけれど。恋に落ちてしまいますけれど！」
「うん。そうですね、ええととにかく、テオに秘密の扉のことを聞いたんですね？」
　おのろけはいつものこと。聞けばミラはテオのことを小さい時分の昔からよーく知っていて、幼なじみといってもいいくらいなのですけれど、これまであまり接点はなくて、ずうっと片思いなのだそう。
「告白。しないんですか？」
「こここここ」
　人間なら真っ赤になっていたでしょうか。ミラは毛をぶわわっと逆立たせて、
「告白だなんて！　そ、そ、そんなの……恥ずかしいです～！　でも大好きです～～～」
「なにが大好きなんだ？」
　しっぽふりふり、くねくねしていたミラの動きがその声ひとつでぴたり、止まりました。
　そうそう、そういえば。待ち合わせてたのを忘れてました。
「なんか用かよ、呼び出して。ミラ。それに、ウワサの留学生さんよ」
　灰白猫のテオがいつもように、ツンツン。緑の瞳でじろりとふたりを眺めておりました。

　starboxs・ネコトピア店のコーヒーは正直なところ、綾花のお口には合いません。かつお風味とかニボシ風味とか、ちょっと……ヨーグルトドリンクは普通においしくいただけましたもので、綾花はいつもそれを頼むことにしています。
　ストローからちゅるちゅるやって、テオが口を開くのを待ちました。その間もずうっとミラはきらきらとした目で彼を見つめて、夢見心地って感じ。
「いや、俺だってそんなに詳しく知らねえよ。そんな噂を聞いたってだけだよ、クラスのメス猫どもが話してるのをたまたま……」
「メス猫？」
　ぴくりとヒゲを揺らしたミラちゃんの目がちょっぴりコワイので、綾花はあわてて矛先チェンジ。
「それで、どんなウワサだったんですか？」
「開かずの扉が、うみねこ大図書館のいちばん奥にあるってよ」
　テオは肩をすくめて、ニボシコーヒーをずずずずず。
「扉というかなんというか……見たやつが言うには、扉であって扉でない。とかなんとか」
「扉であって……扉でない？」
「テオさま、メス猫って。どこのだれですか？　ねえ、テオさま？」
「だから、噂だよ。どこのどいつが言ったかなんて分かりゃしねえ。ともかくその秘密の扉の向こうへ、誰かが消えていくのを見た。たしかにそこには誰かがいたが、次の瞬間、きれいさっぱり消えちまった。後には影も形もなかったとさ」
　にんともかんとも。あんまりにも漠然として、とらえどころがありません。綾花やミラなどはお気に入りの図書館にまつわるウワサということで、こうして探してみるつもりになりましたけれど、そうでなければきっと、女の子たちのお茶会のサカナで終わる話ではありましょう。
「テオさまって、モテるんですね……？」
「で、そのメス猫どもが言うにはよ。秘密の扉の向こうに消えた謎の猫ってのがな」
「誰だったんですか？　どんな猫ですか？」
　好奇心にずいと身を乗り出した綾花へ、テオはふんすと鼻から息を吐きだしました。
「誰かだなんて知るもんか。遠目で見えなかったって話だしな……ともかく、そいつは歌ってたらしい。『お茶会だ、お茶会だ。今日は楽しいお茶会だニャア』なんつってな」

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