行方知れずの夜｜リアクション

行方知れずの夜

　思案の果てに行き着いた答えに、七瀬は肩を落とす。
　正しい答えのはずなのに、答えになっている気がしなかった。少なくとも、己の気持ちはそうではない。違うだろう、と胸の奥で誰かが警鐘を鳴らしている。
　だから七瀬は考え続ける。
(けれど、)
　辿り着いた答えのその先を見定めたくて、傍らで夜を眺めるウォルターの横顔をもう一度見つめる。
「七瀬？」
　視線に気づいて振り向いて笑ってくれるウォルターになんでもないと首を横に振って見せながら、改めて確信する。
(うちにとって)
　『今いちばん好きな人』はこのひとだ。
　かっこよくて、なんでもできるひと。
　でも意外と弱くて普通なひと。
　そうして、
(特別な人)
　己の彼に対する複雑な気持ちに言葉を当てはめるのではあれば、今の己には『好き』以外の言葉を見出せない。
(ウォルターさんが好き)
　だからこそ、
(今は彼女を選べない)　
　居酒屋の合コンで声を掛けて来た女の子のことを話したら、ウォルターはなんと返すだろう。
　――勿体ない
　そう言われる気がした。そう言われるのが嫌で、話す気になれなかった。
(どうしたってうちはウォルターさんのことが好きらしい)
　己のうちの正直な気持ちにやっと行き着いて、七瀬は小さく息を吐く。
　心の中にいつの間にか生まれてこんがらがってしまった思考の糸がやっと解けた思いがあった。
(憧憬か友情か、)
　恋情か――そんなことは知らない。
　大学生になって、社会人になって、それから先もずっと同じ気持ちなのかも今の己にはわからない。
　自分の気持ちの行方も知らないし分からないけれど、それでも今、確かなことはある。
(隣にいたい)
　名前を呼んで、
(うちを見て欲しい)
　だからこそ、と七瀬は傍らを見遣る。
「ウォルターさん」
　今は隣にいてくれるひとの名前を呼ぶ。

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