響く笑い声の端で、グラスの中の氷ばかりが溶けてゆく。
「つまらない?」
隣に滑り込んでくる女子の声に、
倉前 七瀬は伏せ気味だった睫毛をもたげた。こくりと頷きかけた首を半ばで留め、傍らを見遣る。
女子を交えた飲み会にはしゃぎにはしゃぐ大学の友人を背景に、見覚えのある女子が小首を傾げて覗き込んできていた。
「……慣れてないだけです」
言った途端に欠伸が漏れて、少しばかり気まずくなった。口元を抑え、欠伸を噛み殺す。
「そっかあ」
長い黒髪を揺らす女子の横顔を確かめる。はっきりと覚えてはいないが、確か時々講義を同じくしている、気がする。
「七瀬君が来るって言うから来たのになあ」
「はあ、それは、……すみません……?」
おそらくは同い年の女子の言葉の意味が読み取れず、それでも何か不満らしいことだけはどうにか分かった気がして詫びる。
大学の友人に強引に誘われるまま、渋々参加した合コンだった。
会場である居酒屋へ半ば友人に引きずり込まれる格好で席につき、乾杯に次いで自己紹介が始まった時点でもう帰りたいと思っていた。
「ね、」
そう言えば彼女の名前は何だっただろう。
「一緒に脱け出しちゃおうっか」
耳元でそっと囁かれ、
「私ね、七瀬君のこと、ずっといいなって思ってて」
肩に肩を押し付けられ、困惑する。
アルコール混じりの、女の子の匂いがした。
どう返せばいいのか分からず、手洗いを理由にその場を離れる。
あちこちの半個室から聞こえる笑い声と賑やかなばかりのBGMを耳にしながら、手洗いへ続く廊下を辿る。
(いいな、っていうのは)
好き、ということだろうか。少なくとも、好意であることは確かだろう。
それが本気なのか、酔いに任せた戯言であるのか、七瀬には分からなかった。
(僕は、……)
好かれているのなら、そちらに目を向けたほうがいいのだろうか。
(僕が一緒に歩きたいのは、)
脳裏に浮かんだ顔に途方に暮れる。
『好き』を何度も伝えた相手だった。何回でも伝えたい相手だった。
特別に思われたい相手だった。傍に居て欲しいひとだった。
――知ってるよ
己の『好き』の告白に、優しい笑みでそう応じてくれたひとだった。
何度も一緒に歩いた。何度も何度も、たくさん話をした。
思い浮かぶのは彼の顔ばかり。さっきまで間近で顔を合わせていた女の子の声もかたちも、輪郭さえはっきりとしない。
あのひとの金髪の短い髪が太陽の下でどんなに眩しく輝くか、
空色の瞳が感情を表すとき、どれほど豊かな色を宿すのか、
誰にでも優しくておっとりと笑うその癖、心の奥にどれほど硬く冷たい氷を抱いているのか、
――心に浮かぶのは、今も彼のことばかり。
携帯電話が明滅して、電話の着信を告げている。
「んー?」
レコードに落とそうとしていたプレイヤーの針を摘まむ指先を留め、
ウォルター・Bは空色の瞳をのんびりと瞬かせた。窓から夜の色が落ちるテーブルに置いたカップを手に取り紅茶を口に含みつつ、携帯電話を手にする。
通話ボタンを押すより先、電話は沈黙した。
「んー……?」
ほとんどワンコールで切れた電話と、画面に記される相手の名に首を捻る。
元教え子で、今は――
(……そうだねぇ)
躊躇うこともなく、電話を掛け直す。向こうが出るまで鳴らし続ける肚だったものの、
『は、はい!』
数コールもしないうちに、慌てた声の返信があった。
声の向こう、賑やかな笑い声が聞こえている。居酒屋かなとあたりをつけて、彼があまり好まないだろう場所に居ることに、ウォルターはちらりと青い瞳を細めた。
「呼んだー?」
殊更に明るくのんびり、なんでもないように笑って見せる。
こんにちは。
倉前 七瀬さん、プライベートシナリオのご依頼ありがとうございます。
ご自身の気持ちを思案するシナリオ、お届けにあがりました。あと、ふたりでふらふらお散歩デートいたしましょう!
シナリオ概要
◇時間
夜九時過ぎ
◇場所
七瀬さん→シーサイドタウン駅前近くのチェーン居酒屋
ウォルターさん→星ヶ丘の自宅
◇行先
→「夜遊びとかしてみるー?」
シーサイドタウンで『夜遊び』。
夜でも明るい街中をふたりで歩いて、ふらふらっと楽し気な場所を訪ねてみたり?
→「うち来るー?」
ウォルターさんのおうちでのんびり。音楽を聴いたり、七瀬さんが落ち着くまで紅茶を飲みながら話をしたり?
→「どっか行くー?」
電車に乗ってみたら神魂の影響でふしぎの星々に繋がる星空の旅に出てしまったり?
いくつか行先はご用意してみましたが、もちろん全然違う七瀬さんのお好みの場所をご指定いただきましても、ぜんぶ行く! とかでもオッケーです。
せっかくのプライベートシナリオです。ガイドに関わらず、どうかご自由にアクションをお書きください。
登場NPCについて
・ウォルター・B
元教え子であったりな七瀬さんの様子がおかしいことに気づいて電話を掛け直しています。
七瀬さんのアクションによって、この後の行動は変わります。
・七瀬さんに好意を抱く女子
合コンで七瀬さんに声を掛けて来た女の子。黒髪黒目、可愛らしい見た目です。
ご希望があれば七瀬さんを追いかけてきたりするかもしれませんが、なければリアクションには一切登場しません。
・他のマスターさんが担当していない登録NPCやXキャラ、阿瀬が担当している登録・未登録NPCであれば、不自然でなければ登場が可能です。
・Xキャラクターをご希望の場合は、口調やPCさんとの関係性などのキャラクター設定をアクションにお書きください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、URLを書いて頂けましたら参照させていただきます。
それでは、お会いできますことを楽しみにお待ちしております。
どうぞよろしくお願いいたします。