もうひとつの卒業、桜色のにゃあ｜リアクション

もうひとつの卒業、桜色のにゃあ

思い出はかがやいて・１

　パッキー・デートから数日が経った頃。
「あれ？　また会ったね！」
　うきうき気分でウォルター・B先生のお宅へ向かうさなかに、稲積柚春はあの不思議なにゃんこにふたたび出会いました。そう、あの桜色の！
　柚春がかがみこんでちょいちょいと手まねきすると、てっててて。つんとおすましながら、軽やかな足取りで猫はやってきました。
「元気してた？　このへんに住んでる子なのかな」
　のど元をくすぐってやるとごろごろごろ、気持ち良さそうな声をあげて柚春の手のひらに頭をすりつけます。なんとなーくお上品に見える猫ちゃんですけれど、お高くとまってさわらせてくれないわけでもなく、人なつっこくてありがたい限りです。
　ごろごろ、ふにゃん。
「ふふ。この前はありがとうね」
　うれしはずかしパッキーゲーム。見事成功とはいきませんでしたけれど、彼との絆は再確認できたし、なんならより深まったような気がします。
　そのお膳立てをしてくれたのがどうやら、この猫ちゃんのようでして。
「なにかお礼でもしてあげたいな。ねえ、ちょっと待っててくれる？」
　にゃんこがうなずいてくれたわけではありませんけれど、柚春は駆け出し、近くのスーパーマーケットへ。にゃおにゅーるを買って戻ると、ちょこんとおすわりして待っていてくれました。
「はい。どうぞ」
　小袋を開けてやると、ぺろぺろぺろ。にゃんだこの美味しいのは！？　と言わんばかりに、夢中で食べてくれました。気に入ってくれたようです。
「美味しい？　よかった」
　ぺろぺろする桜色の毛並みをなでなで。そういえばウォルターさんもにこにこ顔で撫でていましたけれど、その気持ち、ようやく分かったかも。たしかにこの手ざわりは、やめられません。
　なでなでなで。なーでなでなでなでなでなで、なでなでなで。
　ぷるる、とにゃんこは身を震わせて、
「あ、イヤだった？　ごめんね、ちょっとやりすぎたかな……あれ」
　そういうわけでもないようです。桜猫はふたたび先日のような高貴を思わせる瞳を柚春へと向け、さあついてきなさい、とでも言うかのように先に立ち、てってこてってこ歩き始めました。
「……またなにか、見せてくれるのかな？　でも今日は、ワットの家に遊びに行く予定で」
　ちらと時計を見ると、そろそろ約束の時間です。すぐに向かわなければ間に合わないでしょう。けれどにゃんこのせっかくのお誘いを無下にお断りしてしまうのもちょっぴり、申し訳なくもありました。
　ここはひとつ彼へ連絡を入れて、少しばかり遅れる旨をお伝えしておこうか……なんて考えたところで。
「わ。わ！？」
　ふわりと柚春は浮かび上がり、あたりはほわほわきらきら。気がつけば桜色に七色がにじむ不思議空間を、おなじくふわふわ浮かぶ猫ちゃんに導かれて、ふんわりびゅーん！　飛んでおりました。
「ええっ、なにこれ……！？」
「さて、なんだろうねえ」
「あ、あれ、ワット！？」
「やあ、妙なところで会うもんだ」
　奇妙な現象にもいいかげん慣れてきたらしいウォルターさんも、あぐらをかいて腕組みした姿勢のままに、柚春の隣をばっひゅーん。
「またあの猫ちゃんの粋なはからいってやつかい？　なんにせよ、楽しそうじゃないか。ははは」
「もー、今日はワットの家でお菓子でも作ろうと思ってたのに」
「まあまあ。きっとあの猫なら、悪いことにはしないよ。せっかくだし楽しもうじゃないかあ」
　はっはっは、と気にする様子もない彼に、柚春も思わずくすりと笑んで。
「そうだね。楽しんじゃおっか」
　にゃあ～お。桜猫のとおく響く声とともに、ふたりもふわふわり。