さくらのかき氷屋さん｜リアクション

さくらのかき氷屋さん

◆春のかき氷

　綾辻綾花は早川珪先生とともに３月の寝子島を楽しんでいた。今日は春先にしては少し暖かい。手をつないで歩いているとキッチンカーのかき氷屋を発見した。

「美味しそうですね。寄っていきますか？」
「そうだね」
「それにしても３月にかき氷屋さんって珍しいですね」
「言われてみれば確かに」
「でも今日はぽかぽか暖かいので、冷たいのも美味しそう」

　そんな話をしつつキッチンカーに近づく。メニューをみると、さくらやブルーハワイ、焼きいもやピスタチオなど様々な種類が用意されていた。

「珪さんはどれにしますか？」
「迷うね。綾辻さんは決めたかい？」
「私はさくらにしようかなと」

　綾花は初めて見る『さくらんぼ味』が気になっていた。珪先生は少し考えてから宇治抹茶に決めた。２人分の注文を店主のさくらに伝える。緊張した声色で返事をすると、さくらは調理に取り掛かった。しかしどうも所作がぎこちない。

「大丈夫ですよ、落ち着いてくださいね」

　さくらの様子をみて綾花が優しく声を掛ける。その後も手前側に落ちそうになったものをキャッチしたり、慌てないように落ち着かせたりとサポートした。

「お待たせしました」

　申し訳なさの滲む声とともに２人分のかき氷が差し出される。気にしなくていいですよ、と綾花は返した。話を聞いてみると今日が出店初日だという。

「初日は緊張しちゃいますよね。頑張ってください。リラックスですよ」
「ありがとうございます！」

　店の繁盛を静かに願いつつ、受け取ったかき氷を手に座れそうなところへ移動する。気になっていた『さくら』を食べてみると、さくらんぼの風味にチョコが良いアクセントになっている。それに見た目も春めいた色合いで可愛らしい。

「珪さんのも美味しそうですね。私のさくらも食べませんか？」

　そう言って綾花は人目が無いことを確認してから、一口すくって珪先生の口元に差し出す。珪先生はそれを味わうと、自分の宇治抹茶を綾花に差し出した。お互いのかき氷をシェアしながら雑談に花を咲かせる。やがて楽しい時間とともに氷も無くなった。

「また食べたいですね」

　空になった容器を見て、綾花はそう話す。その言葉に珪先生も頷いた。

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