アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

陽二が結界に両手をついた。
　侵入を拒絶された、ののこの偽者の縫いぐるみ達が、楽しそうに落ちていく。

「らびっしゅ！？っしゅ！？」
　ただ一人、悲痛な叫び声を上げて落ちた空音だけは、相変わらず無駄にいい声の行梨謡が腕を広げて、地面でダイビングキャッチだ。
　やるじゃないか。
　うん？　夜榊水月くんなら、幸せそうにらびっしゅの横で寝てるよ。

　コースターがラーメンクロスの、すぐそこまで迫る。
　最前列に出て、久雨は身構える。
「ふむ、しかし緊張するね……久雨君、もし……いや、必ず成功させてみせるが、その時は是非、その……膝枕をだな……」
　コクピットの言嗣が、悠長におねだりした。
「……ッ、ああっ！　戻ったら膝枕でも何でもしてやる！　だから怯むな！」
「膝枕――ふふ。その言葉、忘れないでくれ給えよ」
「皆、手伝うアル！」
　華菜子も麺棒を手放して、久雨に並ぶ。かなえや、ねむるもそれに加わった。

「よっしゃー、負けへんでー！」
「来るよ！　押し返せー！！」

　苦しそうな音を立て、ジェットコースターが動作を止めた。

　ラーメンクロスの奥で、早速マリナこけしを構えた庚だったが――。

　その時。大きな声に、しかめっ面をしながら、速い翼が横切った。

「そこに居たのねぇ～、ののこ。お久しぶりぃ～♪」
「お久しぶり……？」
　ののこがきょとんと、首を傾げる。

「「「クローネ！！！」」」

「させるかっ！」
　清真が瞬間移動して、クローネとののこの前に割って入る。
「あらぁ、あんたには用はないわよ～？」
「煩い！　俺の友達に、何の用だ！！」
　綾花も身を滑り込ませ、立ち上がってののこを抱きしめる。
「ののこちゃんは、渡しません！」
「はえ？　皆、どうしたの？　いくら仲良しさんでも、けんかはダメだよ～？
　えーと、えーと、カラスさん？　えへ……ごめんね、忘れちゃった。いつ会ったんだっけ？」
　状況が飲み込めないののこは、左右の指をつんつん突合せながら、上目遣いにクローネを見上げた。

「……ののこ、あんた本当に何も覚えてないの……？」

「そこまでよ！　こけしをののこのアホ面にシュゥゥゥゥゥ！！」
「オラよっ、上手い事飛んでくれよ！！？」
　身も蓋もないエヴァの号令と共に、庚が青白く光を纏わせた右腕で、マリナを投げつける。

「じぇぇぇぇぇぇぇ――っと！！」

　マリナの叫びと共に、こけしの底にスラスターが具現化する。
　庚の力に、噴射による急加速が乗った。マリナの＜ＪＥＴブースター＞が、ののこに迫る。

「にょ、にょえ～～～～～っ！！」

「ののちゃん……一寸危ない “夢” だったけど、私、楽しかったよ♪」
　天馬ひびきが隣に現れて、そっと口添えする。

「うん……！　皆、いっぱい遊んでくれて、ありがと――！！」
　ののこが満面の笑みを浮かべて。
　その顔に、マリナこけしがめり込んだ。

「「「やった！！」」」

【マリナ・Ｍ・マディソン　＆　1年4組ラーメンクロスの皆さん　＆　飛行グループ・他　ののこを現実世界に送還！！】

「痛かったら……ソーリー！！」
　大丈夫、縫いぐるみだから！

　一足先に、現実に戻ったののこ。
　周囲が喝采に沸き、庚はクローネに中指を立てて、ニヤリと笑う。
「借りは返したぜ、クソッタレが！」

「あらぁ、案外やるじゃないの……それにしても……」

　――面倒な事になったわね？

　クローネは目を落とす。少女達に付き添われて、こちらへ向かって来る、テオの姿があった。
　すでに、こけしではない。

『あらぁ、テオちゃん。元気になったのねぇ、良かったわぁ』

『ほざけ、クローネ！　てめえの好きにさせるか』

『うふふ、ほーんと元気ねぇ。そうこなくっちゃ、勝っても面白くないわぁ』

『おちょくりやがって！　俺は、てめえに負けた事なんざ一度もねえよ！』

『あはは、面白ぉ～い！　いいわぁ、じゃあそういう事にしといてアゲル～。
　次に会えるのを、楽しみにしてるわぁ、テオちゃん。……それに、あんた達も……』

　クローネの号令で、カラス達は一斉に飛び立っていった。

『じゃあね～ん♪』

　　「アホー」

　　　　　　　「アホー」

このページにイラストを設定する