アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

▼水のみ場　２

「わ～い、お散歩楽しいな～♪」
　ののこの身代わりとなって、水のみ場まで浚われてきた雨寺凛は、クローネの前に引き出されて尚、あほの子を演じ続けていた。
　周囲には徐々に人が集まり始めていたが、まだ玩具の残骸と、カラスの黒い影が目立つ。

「あらぁ～、久しぶりネェ。ののこ、元気してたぁ～？」
　わざとらしい口調とは裏腹に、クローネはどこか凛を煙たがっているように見える。
　凜は疑問を感じつつも、表向きはそれを出さずに、クローネに話を合わせた。
「わぁ！　ク、クローネさん？　お、お、お、お久しぶり～！」

　――クローネは、ののこちゃんに何をするつもりなの？　目的を探らなきゃ。

　そんな凛のしたたかな腹の内には気づかず、クローネは不満げな声を上げた。
「えぇ～？　ホントに覚えてるのぉ？」
「もも、もちろんだよ～！」
「……ちょっとぉ、な～んか怪しいわよぉ？　“アレ” がどこにあるか、ちゃあんと覚えてるんでしょうねぇ～？」
「アレ……？　う、うん！　大事だよねぇ、アレ！！」
　引きつった作り笑いを浮かべる凛に、クローネの表情も曇る。

「何よあんた、様子がおかしいわよ…………んん～？」
　クローネが首を前に出す。
　そのままペタペタと凛の元へ歩いてくると、じろじろその顔を見た。

「神魂がある……やだ、騙されちゃったわねぇ～。あんた、ののこじゃないじゃない」

　一寸の沈黙。
　クローネの指摘通り、ののこは地上に落ちた際に、神魂をバラ撒いてしまったから、表向きは “ひと” と変わらない。
　これ以上の誤魔化しは効かなそうだ。凛は腹を括った。

　凛の指が耳に触れ、＜虚偽声楽（フェイク・ショウ）＞が、ののこの声からけたたましいサイレンの音に切り替わる。

「皆、クローネはここだよ！！　早く来て！！！」

　その頃、空のごく小規模な範囲は、雷雲が覆っていた。
　スパークが走って、遠くからでも示し合わせていた仲間達に居場所が分かる寸法だ。
　じきに仲間が駆けつけるだろう。

　＜天の救い＞雷雲を呼んだのは、この男。邪衣士。
　桃原空音の要請を受けた彼は、小さなアクションフィギュアとなって、ずっと凛の傍に潜伏していたのだ。

　凜は＜虚偽声楽（フェイク・ショウ）＞をリセットすると、怒りと共に声を張る。
「クローネ……ちょうど貴女には言いたい事があるんだよね。
　前に音楽の力を暴走させた事……私まだ恨んでるからね……！」
　キリリと、クローネを見据えて凜は言葉を重ねた。
「音楽の悪用は絶対許せない！！」
　対するクローネは、渋い顔。

「うるっさいわねぇ……！　ののこといい、大きい声出さないでよ頭割れそうだわ！」

「大丈夫？　もっと水飲む？」
　八城昌也がクローネを気遣う。
　前日飲み過ぎたクローネは、二日酔いで少々グロッキーだったのだ。
「あ～、ありがとん。あんた、そろそろここから離れた方がいいかもねぇ？」
　クローネの言葉の通り、水のみ場にはこの後、多くの者が殺到し修羅場となる。