ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～｜リアクション

ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～

　あなたが来てくれたから私は涙が止まらない

　羽生碧南は、打ち上げパーティのある桜花寮への道を、鷹取洋二に付き添われて歩いていた。
　卒業式後のパレードでは、洋二にすがってあられもなく泣いてしまった。
　涙はいまだ枯れず、あとからあとから零れてきている。

　こんな泣き虫で嫌いになっちゃいませんか、とか、洋二さんが来てくれて本当にうれしかったんです、とか言いたいことはいろいろあるのだけれど、嗚咽でどれ一つ言葉にならないまま、ふたりは桜花寮の前に着いてしまった。
「残念だよ。ここまでだなんて」
　聞けば洋二は所用があり、碧南の卒業式を見届けるために時間をずらしてもらったのだという。
　そんなことを聞いたら碧南はもう言葉がない。
「洋二さん……ありがとうございます」
「いやなに。気にしないでくれたまえ。はい」
「……ハンカチ？」
「それで涙を拭いて。それを僕だと思ってくれていいからね」
「ふふっ、……そうします」
　ちょっとキザに、背中越しに片手をあげて去ってゆく洋二を見送って、碧南は桜花寮へと入っていった。

　顔を洗ってからパーティの会場に向かい、すっかり空いたお腹を満たしていると、碧南はニヤニヤした同級生たちに取り囲まれた。
「羽生さん見てたよ～」
「抱きついてた人、恋人？」
「！　見てたの！？」
　耳元で、囁き声で尋ねられるのって、どうしてこんなに恥ずかしいんだろう。
「見てたの、も何も」
「あんなに派手に抱き合ってちゃあ、ねぇ？」
「キャー！　やめて、言わないで！」
　そのあとは笑い声の大合唱。泣いたのと笑ったのとおしゃべりしたのとでお腹が空いて、碧南は取り皿いっぱいに食べたり飲んだりして――。

「ふぅ疲れた。ちょっと休憩」
　ふらりと外に出てきた碧南は空から花びらが降って来たのに気がついた。
　何気なく手に取ってみる。

　碧南はバスケットコートを駆け抜けている。ユニフォームには木天蓼大学の文字。
　パスを受け取る。咄嗟の判断でスリーポイントシュート！
　歓声が上がり、碧南はチームメイトたちとハイタッチする――。

　また別の花びらを手にする。

　そこはどこかの音楽ホール。正装した碧南が観客席に座っている。
　舞台上でスポットライトを浴びてヴァイオリンを演奏しているのは洋二だ。
　その演奏はあまりに見事で、碧南は思わず涙が零れる――。

　また別の……。

　暗がりに、寝子高女子バスケ部の後輩、浅見柚乃と霧生愛がいる。
　柚乃の手元で煌めく白刃。愛が何か叫んでいる。

　――に、げ、て？