ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～｜リアクション

ハレよ、風吹け　～ぼくらが幸せでありますように～

　娘とおさんぽ

　梓智依子は娘とお散歩中。
　昨日の夜はしっとりとした雨だったが、今日はぽかぽか。いよいよ春が来たと実感できる陽気だ。

「気持ちいいねー、ママ」

　手を繋いだ娘の楓もご機嫌なので、こちらまでニコニコしてしまう。
　楓は１４歳の時に産んだ子で、彼女の父とは音信不通。若くしてシングルマザーとなったため、智依子は高校に行くのを諦めていたが、娘がすこし大きくなったのと祖父母の後押しもあって去年寝子高を受験した。
（去年の今頃は、合格通知を貰って入学準備をしていたわね）
　一年前のことを、智依子は懐かしく思い出す。
　正直自信がなかった。子育てとバイトと高校、そんな三足わらじを履いてうまく行くのか、と。
（でも寝子高はこんな私を、楓ともども受け入れてくれた）
　それが、どんなに得難い幸運であるか――自分と同じ立場の子が置かれている状況を考えればわかる。
　そんなことをぼんやり考えて、いつしか歩みが遅くなっていたのだろう。
「ママ、神社寄っていきたい！」
　楓が手を引っ張っている。気づけば目の前には、寝子島神社の大鳥居が聳えていた。

「みてー猫さんいっぱいー！」
　境内の猫の大集会ぶりにはしゃいだ楓は、走って猫の中に飛び込んでゆく。
「ちょっと楓ー」
　慌てて止めようとしたが、智依子の足元にも何匹かの猫がなでなでしてと言わんばかりにすり寄ってきた。
「……これは」
　なんてつぶらな瞳。なんて気持ちよさそうな毛並み。
「もっふもふだよ、ママ！」
「ほんと、可愛いっ！」
　……結局一時間ほど母娘で猫もふりタイムを過ごしてしまう。
　途中で、アホ毛の少女が混じって来た。
「猫かわいいねー」
　楓が話しかけると、
「猫かわいいよねー」
　と、その子も猫が好きなのかモフモフしまくる。あれ、この子、どこかで見たような気が……？　とは思ったが制服を見たら自分とは学年が違うようなので、智依子は名前を知らなくても不思議には思わなかった。
「猫ゴロゴロだねー」
「気持ちいいのはいいことだー」
「二人とも猫まみれね」
「ママもね」
　なんてことない「普通」の日の午後。
　ゴロゴロゴロゴロ。猫たちは喉を鳴らしている。