Tonight, Tonight｜リアクション

Tonight, Tonight

　檜扇舞華もコンビニを出て歩いておりました。
「……結構、使いましたね！　まあハズレはないしこれはこれで」
　もちろん、くじをたくさん引いたという意味です。財布は軽くなりました。でも、心は満たされているのでいいとしましょう。
　なお、彼女は食玩も買いこんでおります。
　最近の食玩は、その造形も結構あなどれません。某機動戦士のパロをいくつか購入しました。まだ未開封ですが開けるのが楽しみです。体育座りした戦闘メカとかが入っているとのこと、当たったら、見ているだけで癒されそうな予感です。
　さらにコーラ味のグミも買っています。これを口にしながら徒歩の帰り道。
　――寮に戻ったら、フィギュア鑑賞と食玩の開封作業を放送しましょう。なにが出るかな、なにが出るかな。
　なんてことを考えていた舞華ですが、ただならぬ気配を感じて足を止め振り返ります。
「誰……誰ですか！？」
　そこにいたのは巨大なシルエット！　小山ほどもある巨人でした。
　そびえ立つ肉厚なボディ、鋭い眼光が闇の中でギラギラ光っています。
　小脇に猫をかかえていますが、よもや食べるため……！？　長い髪を振り乱しているのも恐ろしい。
　なまはげを激しくパンプアップさせたような雰囲気ではありませんか。
　しかもそいつが走って追ってくるではありませんか！
「深夜の怪奇現象発生ーッ！？」
　一声上げて舞華は逃げ出しました。文字通り、一目散に。
「違う……違うッ！」
　と、なまはげオウガ（に誤解された）真宮寺一は呼ばわったのですが、もはや舞華の背は遠く彼方にありました。
「……また、誤解されてしまったか……」
　皆さん、知っていて下さい。鋼鉄のマッスルボディーの中にも、傷つきやすい乙女心があるということを。心がちくちく痛みます。一はなにも悪いことをしていないのに、ただ、大きいだけなのに。走ったのだって、寮の門限を気にしていただけのことなのです。
「……こんなときは……これだ……」
　一は小脇の猫、というか猫のぬいぐるみを両手で抱きしめました。
「むっ……これはいい……まさかコンビニでこういったものまで売られているとはな……やはり、か、かわいい！　心が……安らぐ……」
　これはおそらく、寝子島のおみやげ品です。ハートの傷を癒すのは、ふんわりやわらかな手触りとやさしい香なのでした。
　やがて心が癒えると、一はぬいぐるみを抱いたまま走り出しました。門限を思いだしたからです。
　今日は色々ありました。
　本当に、色々ありました。
　プロテインやダンベルを買うのも忘れていました。まあ実際、コンビニには売ってないでしょうけど。
　でも、彼女は思うのです。
　――たまにはこんな日もあってよいのかもしれん、気がまた向けばコンビニにくるのもやぶさかではないな。
　と。
　真宮寺一も本当は、心の優しい少女なのです。