卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　卒業式当日～卒業式に退学届け

「先輩、リボンをどうぞ」
　卒業生の胸元に花飾りのついたリボンをつける係となっていた霧生愛は、敬愛する先輩の羽生碧南が自分の列だったことを嬉しく思う。
「ありがと」とほほ笑む碧南はいつも通りだ。
　と、その場を行き過ぎる白銀の髪の先輩がいた。
「先輩、リボンを」
　呼び止めるが、彼女は首を振る。
「わらわはよい」

　斉田珠喪は颯爽と歩いていた。
　卒業式当日の、ついさっきまで在籍していた寝子島高校の廊下は、卒業を祝うリボンをつけた卒業生たちで賑わっていた。珠喪はその中の幾人かの顔を知っていたが、声を掛けはしなかった。
　職員室から――名目上は――担任の久保田美和先生が袴姿で駆けだしてくる。
「珠喪ちゃん、待って！　本当に退学するの！？」
　珠喪は立ち止まって、ひらりと軽やかに振り返った。
「そうじゃ。わらわはプロゲーマーとして生きてゆく」
「でも」
「プロゲーマーになる、と決めた瞬間から、いつかは退学届けを出すつもりだったのじゃ。いざなってからは世界を駆け巡るのに忙しく、とうとう卒業式当日となってしまったがな」
　珠喪は在学中に国内外数多のゲーム大会で素晴らしい成績を納めアメリカの大手企業とスポンサー契約。以後はアメリカを拠点にプロゲーマー「лиса」として活動をしてきたため、寝子高には事実上通うことができず休学状態であった。此度は、久方ぶりの帰国である。
「いずれにせよ出席日数が足りず卒業は無理であろう？　であれば、自主退学こそが寝子島でのわらわの最後の仕事と思うてな」
　珠喪の表情に迷いはない。美和先生には止める言葉がなかった。
「わかったわ。珠喪ちゃん、お元気で」
「待て待て。せっかく寝子島まで来たんじゃ。寝子高生ではなくなったが、卒業式くらいは参加させてくれぬか？」