卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　夢の寝子島～様々なあやかしが潜む恐怖の古城から脱出したい！

　厚く垂れこめた黒雲を背景に聳え立つその古城は、様々なあやかしが潜む恐怖の城、という触れ込みだった。
「やり残した想いか。神様というのも、ひとやあやかしとそう変わらないものだね」
　三毛谷道哉は、自らが猫又になった時のことを思い出していた。
「したいこともやりたいものもある強欲で項垂れて希望を抱く愛しい存在……どこか親近感わいてしまうね」
　ののこの願いを叶えてやろう。一人の女の子の願いとして。
　様々なあやかしが潜む恐怖の古城からの脱出。それがののこの願いだという。
　しかしこの城はただの打ち捨てられた廃城で、あやかしなぞ、居はしない。
　居はしないが、居るふりはできるというもの。
　ののこの願いを叶えるべく集ったのは、山高帽を被った猫又の道哉を含めた三人のあやかしたちであった。
「私も力を貸そう」道哉は煙管をふかして目を細める。「あやかしの本領の見せどころだね」
　血液を操る能力を持つ吸血鬼のヴィーゼ・ベルンスタインもにこり。
「ふむ、テオちゃんに呼ばれたけどあやかしの潜む古城の演出ねぇ……なかなか楽しそうじゃない？」
　三人目は大狐の娘で、百年を生きる狐のあやかし片夏阿呂江だ。
「ふむ、あのののこを怖がらせればいいのじゃな」
　三人は蜘蛛の巣の垂れさがる薄暗い古城の中で、いかにののこを驚かすかの相談を始めた――。

◇

　ののこは、降りだしてきた雨の中を急いでいた。
　行く手の岩山のてっぺんに、黒々と聳え立つ古城が見える。西洋風の尖塔と、和風の瓦屋根を備えた和洋折衷なその城は、いかにもな威容を誇っていた。恐ろしいあやかしがいると聞く。けれどあそこであれば雨宿りもできるだろう。
　と、どこから現れたのか、古めかしい山高帽を目深に被った黒外套の男が、ののこを呼び止めた。
「嬢ちゃん、気をつけた方がいい」
　男の声は幽玄のように低く震えていた。

「ここは迷い込んだものを食い殺すという化物や魑魅魍魎どもが棲まう土地。
闇魔の影から美味しそうな命が通りかかるのを今か今かと待っている」

　ののこは男の言葉に恐怖を覚え、ごくり、と喉を鳴らす。
「……という噂があるんだ。どうか気をつけてくれ」
　男は口元をニッと引いてそう締めくくると、黒外套を翻して雨霧の中へと去った。

◇

「手始めに、怖い話を嬢ちゃんに吹き込んで来たよ」
　古城の中に舞い戻った道哉は、ヴィーゼと阿呂江に首尾を報告する。
「そういう下拵えって大切ですよね」
「腕がなるのう。ののこのやつを震え上がらせてやるわ」
　阿呂江が楽しそうに舌なめずりをしたとき、ぎぎぃと重くきしむ音を立てて木製の大扉が開いた。
　隙間からそっと顔をのぞかせたのはののこだ。
　三人は、言葉を控え、身振り手振りでそれぞれ配置につくよう伝えあう。
「こんにちはー。誰か、いますか？」
　ののこが恐る恐る、城の中に入ってくる。
　と。
　ののこの背後でバタンと音を立てて扉が閉まった。
「ひいっ！」
　ののこは悲鳴を上げるがなんのことはない、ヴィーゼが血を操って扉を閉めたのだ。
　扉に戻って開けようとしたののこは、そこで再び悲鳴をあげることとなった。なにしろ、扉には今ついたばかりのぬるりとした血でべっとりと濡れていたのだから。血の演出ならお任せあれなヴィーゼである。
（オブジェが唐突に倒れたり落ちたりするのも恐怖演出の定番ですよね）
　ヴィーゼはこっそりと血液の手で押して、扉の脇に立っていた銀甲冑の像を倒した。
「きゃあああーーーっ！！！」
　ののこは盛大に悲鳴を上げながら、城の奥へと駆けだすこととなった。