卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　卒業式前日の寝子島～卒業式準備

「あれ？　桜はどこ行った？」
　有沢茉奈は桜色した薄紙を切る手を止めて、顔を上げて教室の中をきょろきょろ見回す。
　教室では何人かが作業しているが、友人の水上桜の姿が、そういえば、ない。
「まあ、あの子も生徒会の副会長やってるから、そっちの方が忙しいのかもね」
　まさか友人が同時多発世界に行っているとは思いもよらず。
　段ボールに山盛りになった大量の紙吹雪を見遣って、茉奈はひとつ、ため息をつく。
　数日前から２年生の有志でコツコツと作り続けてきたおかげで、これだけの量になったのはいいが。
「こんなにたくさんの紙吹雪、撒くのはいいんだけど掃除するのが本当に大変だし」
　ゲンナリと頷く周りの生徒たち。
　紙を切るだけの簡単なお仕事にすっかり飽きているのは、茉奈だけではないようだ。
「でもきっと撒くとなったらそんなことを忘れて景気よく撒くんだよね」
「そうそう」
「ああでも、気が遠くなりそう……イタッ！」
　注意力が散漫になっていたようだ。指を切ってしまった。茉奈は思わず指を口にくわえた。

　――大丈夫？
　最愛の彼氏、閑野カノンの声が聞こえる。
　けがをした茉奈の指を、自らの口に咥えて手当てをしようと……。
　温かい口唇に吸われる指。カノンったらそんな大胆な――……。

「……な、茉奈っ！！」
　いっしょに作業していたクラスメイトが、必死の形相で茉奈の肩を揺さぶっている。
「へ？」
「へ、じゃないよ。血が垂れてるのに、急ににへらっとして、遠い世界に行っちゃって！」
「え、そ、そうだった？」
　カノンは妄想であったか……。
　茉奈はその後、保健室に連れていかれた。指の手当てをして少し休むように言われて。