卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　夢の寝子島～武器を手に冒険に出て、魔法の森へ！
　伝説のマタタビを探しに行きたい！

「野々君、とどめだ！」
　針葉樹が鬱蒼と茂る魔法の森で。
　勇者の格好をして謎の“猫馬”に乗ったののこは、騎士・志波高久の声にしたがい、ぽにょぽにょした菌類風のモンスターを切り伏せる。なんか弱そうなやつだったが、高久は盛大にののこを持ち上げた。
「さすが勇者だな」
「いやあ、それほどでも……あるかも？」
　なにやら照れているが、道中出くわした強力なモンスターはののこではなく高久が屠ってきていた。

「前衛は任せてくれ、なぁに、勇者はドンと構えていなきゃ、だろう？」

　禍々しいオーラが出ている気がするが、気のせいだ。ののこの手助けをする気持ちは本物である。
　こうして森を進んでいると、樹々が開けた場所でお弁当を広げている家族連れに出くわした。
　父は恵御納久隆、母は恵御納理沙、そして息子は……まるで森の小人のような三歳くらいの男の子だ。
「もっと食べなさい冬夜。リーシャが作ったおにぎりは世界一おいしいからね」
「そんなあなた、世界一なんて言いすぎよ。でも冬夜、あなたが食べてくれたら私は嬉しい」
　冬夜と呼ばれた男の子は笑顔で頷き、父と母が差し出すおにぎりを美味しそうに頬張っている。
　久隆と理沙は愛おしむように冬夜を見つめていたが、その眼差しはどこか切なく、溶けゆく雪の結晶を大切に手のひらの中にとどめておこうとするかのような、そんな気配を高久に感じさせた。
「こんにちは」
　高久は冬夜たちに声をかけた。
「俺たちは伝説のマタタビを探しているんだが、なにか知らないか？」
「いや、すまない」
「わからないわ」
　久隆と理沙が申し訳なさそうに首を振る傍らで、冬夜はわあっと顔を輝かせ、ののこが乗る猫馬に興味津々の様子。ののこが、乗ってみる？　と声をかけると、うんっと嬉しそうに頷いたので、高久は冬夜を担ぎ上げて、猫馬の鞍に乗せてやった。
「猫馬が好きなの？」
　とののこが尋ねると、
「猫が好きなの！」
　と冬夜は答えた。高久は彼にも尋ねてみる。
「君は知らない？　伝説のまたたび。猫も猫馬も酔ったみたいにいい気分になる木だそうだ」

「知ってるよ。森を抜けた先の丘。猫がいっぱいいるから、すぐわかるよ――」

　冬夜からヒントを貰ったののこと高久は森を抜けた先の丘へたどり着いた。
　大きな木が聳え立っている。その木に太く巻き付く蔓。白く小さな花をつけている蔓の方がまたたびだろう。
　その周りには猫たちが集って、にゃあにゃあゴロゴロ。
「これが、伝説のまたたび……！」
　呟いたののこの耳に、どこからともなく声が届いた。
『選ばれし勇者よ、我の声が聞こえるか』
「聞こえる！　聞こえるよ！」
『さあ、伝説のまたたびを手にするのだ……』
　ののこは声に従い、うやうやしく伝説のまたたびに手を伸ばした。
（……ふう。俺のろっこん＜心の打鐘＞で天の声を演出してみたが、信じて貰えたみたいだな）
　高久はほっと胸をなでおろす。ミッション、クリアだ。

◇

「明日、『ふつう』に戻ったら……もうあの子には会えないかもしれない」
「今の冬夜君と会えるのは最後かも……」
　駆け回る冬夜をみつめる久隆と理沙の瞳には、うっすらと涙がたまっている。産まれてこれなかった子。その子とこうして邂逅できていること自体が奇跡なのだと言い聞かせる……。
「お父さんお母さん」
　そう呼ばれて、久隆も理沙も、堪えていた涙が頬を伝った。
「冬夜。私達の子として、また生まれ変わってきてね」
「待っているから。その時は……一緒に色んな所に行こうな」
「お母さん。お父さん」
「もしかしたら付ける名前、変わっちゃうかもだけど……！」
「うん……新しい名前、楽しみ！」
　寂し気に微笑む冬夜を、久隆と理沙は包み込むように抱きしめる――。