卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　冬の寝子島～学校帰りの買い食いをしまくりたい！・その２

　買い食いの日々も七日目を迎えたころだろうか。
「駄菓子屋には駄菓子屋の攻略法がある。予算が決まっていてそれが少額なら、大きいものひとつに、小さいもの複数がベターだ」
「……」
「……」
「……」
　月詠の達観した物言いに、落合まゆらと月守輝夜、青木慎之介の三人は思わず視線を交わし合う。
　そこは旧市街に昔からある駄菓子屋だったが、駄菓子屋とは広大な宇宙なのだという気が急にしてきて、店の壁を埋め尽くす色とりどりの菓子がまるで、銀河の星々のように見えてきた。
「ま、予算で頭悩ませながら買うのも駄菓子屋の醍醐味よね」
　二十歳になるまゆらは、駄菓子屋に来るのは久々だ。ここにくると子どものころのウキウキする気持ちを思い出す。ののこも目を輝かせてどれを買おうか悩んでいるようだ。
　輝夜はかごを持ってきて、慎之介やののこにも渡した。

「子どもの頃、よく来ていたんですよ。
ののこ先輩と慎之介くんと被らないようなお菓子を選んだらシェアできるかな？」

「そうだね！　みんな違うのを買ったら交換出来て色々楽しめるね」
「駄菓子屋ってジャパニーズカルチャーだよな！　シェアはナイスアイデアだぜ、月守」
　ののこと慎之介は、輝夜の提案にサムズアップ。
「まゆら先輩や月詠ちゃんも」とののこは立てた親指をまゆらと月詠の方に向ける。
「いいわね」
「悪くない」
　というわけで、いったん分かれて店内散策。
「月守は何買う？」
　慎之介が輝夜の籠をのぞき込んでくる。
「私はシェアできるように量の多いものを。それと」
　と輝夜はいたずらっぽい上目遣いで、くじ付きのキャンディを指差した。
「これも、みんなでやってみませんか？」

　それぞれが悩みに悩んで500円分お菓子を買うと、そこから少し歩いた寝子島神社の境内へ。
　駄菓子を広げるとしたら、神社の境内はうってつけだろう。なんとなくだが。
「ののこちゃんは何を買いましたか？」
「えーっとね。にんじんみたいなのと、ヨーグルトみたいなちっちゃいカップのお菓子とー」
「懐かしい！　私は、ぶどう味で九つくらい入っている小っちゃくて四角い砂糖菓子と、占いチョコと……」
「まゆら先輩は？」
「のしイカにすこんぶにソースせんべい」
「なんか渋い！　月詠ちゃんは？」
「私は大物として、混ぜると色が変わる知育菓子を買った。魔女としては外せんだろう。それと、すももだ」
「慎之介くんは？」
「穴あきラムネと棒みたいなゼリー。ベリーカラフルだったからさ」
　思い思いに買い物ができた五人は、それぞれの買ったものをシェアしながらのおやつタイムを楽しむ。
「このワイワイするかんじ、小学校の遠足を思い出すね、慎之介くん」
「そうだな」
　輝夜と慎之介はともに旧市街で生まれ育ったので、神社でこうしていると子ども時代の記憶が呼び起こされる。低学年のころは近所の寝子島神社がちょうどよい遠足先だったりしたものだ。
　ひとしきり駄菓子を楽しんだあと、輝夜がくじ付きキャンディをみんなに渡した。
「では、くじ付きチャレンジいきますか？　当たればもう１個、もらえます」
「誰か当たるか、ワクワクするね！」
　ののこが肩を揺らしてワクワク感を表現してくれて、みんな笑いあってしまう。
　キャンディは大玉でソーダ味。包装の一部が黒塗りになっていてその裏に、あたり、とか、はずれ、とか書いてあるのだ。
「いきますよ。せーの！」
　五人はいっせいに包みを開ける。
　自分の結果を見て息を呑み、それから全員顔を見合わせて。
「全員、はずれ！？」
　爆笑してしまった。
「そんなこともある」と月詠は涼しい顔。
　輝夜もそう思った。
　ののこちゃんもみんなも、こんなに笑顔になれるなんて。
　みんなはずれなのも、悪くない、と。