卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　秋の寝子島～学校帰りに寝子島の
　まだ行ったことのないところを散策、探検。門限を破りたい！

　よく晴れた秋の日の放課後。九夜山の登山道入り口に、ののこと光村日向の姿があった。山の樹々は紅や黄色やその間のオレンジに染まって、まるで日向の髪のように鮮やかである。

「探検部だったからさ、寝子島中をマラソンやロッククライミングで探検したこともあって。
　探検でやりがいがあるといえばやっぱり九夜山かな、って。
　探検部で探検したときの地図とメモは持ってきたし、ルートも決めてきたし」

　未確認生物がでるかもしれないんだ、などと日向はすこし話を盛ってみる。
　日向の肩でにゃーと鳴くトラ猫は、コトラ。日向は迷子になっていた千恵の兄なのである。

「日向くんとコトラくんと探検、楽しみ！　レッツラゴー！」

　まずは、ロープウェーで展望台前まで一気に登る。そこから寝子島のあちこちに点在する七福猫のひとつ「福禄寿猫の社」へ。福禄寿猫は亀に乗った猫の石像で、有志が作った手作りのログハウス風の社に鎮座している。
「この探検が安全でありますように！」
　日向はそう手を合わせて、それからののこと一緒に像の前で、ピースサインの自撮り写真を撮る。
　次に廃墟になった遊園地、「寝子島イリュージョンランド」を訪れた。もう回らない観覧車。さび付いたティーカップ。塗装の禿げたメリーゴーラウンド……なんとももの寂しい場所だ。ののこも、口数が少なくなっている。
「次は『先がけの大桜』を探してみようか」
「先がけの大桜？」
「うん。一足早く咲く桜で、なかなかたどり着けないらしい。今は咲いていないかもしれないけど」
　日向とののこは、大桜を探して山中の獣道へと分け入っていく。
「ここ坂が急だから足元、気を付けてね」
「うん……わあ！」
　言われたそばから足を滑らせ、ののこが坂を転げ落ちかける。日向が咄嗟に支えたので大事には至らなかったが、ちょっぴり擦りむいてしまったようだ。
「肘、血が出ちゃったね。大丈夫。絆創膏あるから」
　さすが探検部。準備万端な日向である。
　それからしばらく歩き回ったが、大桜の木にはたどり着けなかった。
　その代わり、樹々が開けて寝子島が眼下に見渡せる場所に出た。
「わあ……！」
　ののこは思わず感嘆のため息を漏らす。
　紅葉の赤と海の青に挟まれて、街々の屋根や窓が陽光を反射して銀色に光る様は、この世のものとは思えぬほど美しく――。
「……野々さん？」
「あ……なんでだろ。目から水が……」
　静かな涙が伝って落ちる。袖でごしごしと擦っても、街の金色を映したののこの瞳から落ちる涙はあとからあとから溢れてきて止まらない。
「寝子島だなあ……と思ったら、さ」
「うん」
「私、寝子島、大好きだなあって……」

　日向は願いごとが叶うという「妖精の泉」に行ってみないかと誘ったが、ののこはもう少しこの場所にいたいと言って、眼下がともしびでいっぱいになるまでそこで街を見つめ続けた。ののこはやはり何か感じ取っているのだろう、と日向は思った。別れの予感のようなものを。