卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　秋の寝子島～登校中に誰かを助けて大遅刻して、
　先生に怒られるけどこっそり誇らしい感じになりたい！・その２

　ののこと蒼は、途中で出会った猫とアイオといっしょに、迷子になったという小学生を探して、走り回った。迷子になった子の名は『千恵ちゃん』。家は旧市街だというから、小学校より西側に行ったとは考えにくい。どちらかというと旧市街側にいるのではないか、ということで、そちらを重点的に探すことにする。
「いましたわー！」
　アイオが声をあげたのは、寝子島神社にほど近い、民家の裏手の小道を覗いたときだった。
　水色のランドセルを背負ったまま疲れて体育座りしていた千恵は、アイオの声に驚いてゆっくりと顔をあげた。よほどあちこち歩いたのか、ほっぺたが泥と葉っぱで薄汚れている。
「お姉ちゃんたちは……？」
「アイオちゃんに頼まれて、迷子ちゃんを探してたんだー」
「あなたが千恵ちゃん？」
　蒼に名を呼ばれ、千恵は頷く。ののこと蒼が微笑む中、アイオが千恵に手を差し伸べた。
「こんにちは千恵、あいおシスターズの姉の方ですわ。いつもライブや配信見てくれてありがとうなのですわ！」
　千恵は、見つけてもらえた安堵と、コトラを見つけられない失望の、両方の想いがないまぜになって、ほろほろと涙を流す。
「コトラを探して迷子になっちゃって……うう、見つからないし、お姉ちゃんたちも手伝って下さい……！」
「コトラって……」
「猫？」
　首を傾げた蒼とののこの間を割って、にゃーと進み出たのは、さっきの猫だ。
「え……コトラ？　どうして？」
「さっき寝子島病院のあたりで会ったんだー」
「もしかして、この子の飼い主って……」
　蒼の問いかけに、千恵はコクコクコクと、首がもげそうなほど頷く。
「うそみたい！　ありがとう！」
　千恵はぎゅーっとコトラを抱き締め、幾度も幾度もお礼を言った。

　コトラは野良猫と喧嘩して手負いとなり、興奮状態で帰れずにいたらしい。千恵が猫おやつを与えると、よほど腹が減っていたのかむしゃむしゃ食べて、ゴロゴロ喉を鳴らし始めた。
「コトラ、派手にやったね。動物病院ここから行けるかな……」
「送っていくよ」とののこはまたまた善意を発揮。
「大丈夫！　コトラも一緒だからお姉ちゃんたちは寝子高に行って」
　千恵は遠慮するが、ゆるゆると首を振ったのはアイオだった。
「また迷子になってしまいますよ？」
「う……」
　迷子には定評がある千恵である。
　せっかく見つけてもらったのにまた迷子になったら兄も心配するだろう。
　こうして四人と一匹は病院に向かうことにしたのだが、途中でコンビニを見つけたアイオは急に数メートル先まで走ったかと思うと、振り返って仁王立ちした。
「みなさん、お腹空いてませんか？」
「空いてるーっ！」
　ののこがイの一番に手を挙げる。
「素直でよろしいですわ！　そこのコンビニでお菓子や飲み物を買いましょう！　アイオがお金出しますわ！」
「え、でも」
　そこまで甘えられない、とためらう千恵に、アイオはにっこり片目を瞑ってみせた。
「上限5000円！　コンビニ限定スイーツにお茶とジュースと……アイスも買っちゃいましょう。これぐらいの豪遊ならお金は気にしないでくださいませ、これでも大人気MewTuberですからね！」

◇

　千恵とコトラを動物病院に送り届けたののこたちが寝子高に着いたのは、十二時すぎ。
　お昼休みに入った教室前の廊下には、生徒たちが溢れている。
「アイオは３年生の……別のクラスなのでここでお別れです。教室に入って怒られても胸張って行きましょうね！　女の子を助けたんですから！」
「なんか誇らしい気分よね」蒼も笑う。
「うん！　アイオちゃんまたね！　バイバイ！」
　その後アイオがどこに行ったのかはわからない。放課後、先生に呼び出されたのはののこと蒼だけで、当然ながら大目玉を喰らったが、あまり堪えなかったのは、別れ際の千恵の笑顔があったからだ。