卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　秋の寝子島～登校中に誰かを助けて大遅刻して、
　先生に怒られるけどこっそり誇らしい感じになりたい！・その１

「コトラ～、コトラ～」
　ある朝のこと。小学生の光村千恵は、家出して帰ってこない飼い猫の雄のトラ猫・コトラの姿を追って、どことも知れぬ裏道を彷徨っていた。背中には水色のランドセル。小学校に通学する途中だったのだ。でも、不意に見かけたコトラらしきトラ猫の姿を追いかけずに学校に行くことは、千恵には到底できなかった。
「ここはどこ？　コトラもどこ……学校いかなきゃ……でも、ここを離れたら次はどこで会えるかわからない……どうしよう……」

◇

（ののこ先輩が「登校中に誰かを助けて大遅刻（以下略）」を希望しているらしい。
だけど、そうそう都合よく「困っている人」っているのかなあ？）

　おなじ朝、仙藤蒼はそんなことを思いながら、ののことシーサイドタウンの道を歩いていた。ののこはやる気満々で、困っている人はいないかとあたりをきょろきょろ見回している。と、手押し車のお年寄りが横断歩道を渡るタイミングがつかめず、立ち往生していた。
「困ってる人発見！」
　ののこはおばあさんに声をかけた。
「あらまあ、寝子高の学生さんたち。私、歩くのが遅いもんでねえ……」
「この道路、朝の時間帯は交通量多いもんね」
「エスコートするよ！」
「あらあら、ありがとねえ」
　蒼とののこは、おばあさんを守るように左右について、いっしょに横断歩道を渡ってあげた。歩きながらどこまで行くのか尋ねると、寝子島総合病院へ行くところだという。
「このままだとまた立ち往生するかも？」
　蒼とののこは顔を見合わせる。ののこは決意固く、頷いた。
「安心して、病院まで送っていく！」
　病院は学校とは反対方向、寝子島小学校の川向い、旧市街の側にある。当然、そんなことをしたら遅刻だ。しかし、これがののこのしたいこと！　おばあさんははじめは恐縮したが、最終的には蒼とののこの好意に甘えることにした。

◇

「おばあさんに親切できて良かったね、蒼ちゃん！」
　いくつかの信号を渡り、無事に病院におばあさんを送り届けたののこは、満面の笑みを浮かべている。
　蒼はちらりとスマホの時計を見た。
「まだギリギリで学校に行ける時間だよ」
「あーあ、遅刻は出来ないかなー？」
　などと、遅刻したい気まんまんのののこに、思わず蒼は苦笑する。
　と、足元でふわふわと動く感触。
　蒼が視線を下げると。
「にゃー」
「猫ちゃん？」
　トラ柄の猫が、蒼の足元にじゃれついていた。
「野良かなー？」
　ののこがしゃがみ込んで猫を抱き上げる。
「オスだー。なんかケガしてるー」
「ケンカしてきたのかな？　毛並みがきれいだから、野良猫って感じがしないけど、どこの猫だろう？」
「飼い主がいるなら、探してあげたいね」
　ののこがそんな善意を見せた時である。

「ののこ、大変ですわー！　小学生の女の子が迷子になったらしいですわ！」

　白銀の髪をコロネのようにくるくると巻き、ブルーの猫耳キャスケットを被った少女が、向こうから駆けてくるではないか。寝子高の制服を着ているから寝子高生なのだろうが、あまり校内では見ない顔である。
　怪訝な顔をしたののこに、少女は手をあわあわさせて、取り繕うように言った。
「えっと、寝子高３年生のアイオ。アイオ・キャンドライトですわ！　ほら高校の制服も来てますし！　学校で会ったりしてましたわ！」
「そうだっけ……？」
（本当はほしびとなので学校ではお会いしていませんけれど、ここは勢いで話題を逸らして！)
　アイオはぐっとののこの手を両手で握る。
「探している子はアイオのファンでもあり大切な友達なのですわ！　今すぐ探しに行きましょう！」