未来の二人の結婚生活｜リアクション

未来の二人の結婚生活

　日曜日の朝、朝鳥さゆるはベッドで目を覚ました。仰向けの姿で隣を見ると姫木じゅんが無邪気な顔で寝ていた。
　星ヶ丘の教会で結婚式を挙げて五年が経つ。じゅんの見た目は変わらず、無垢な少女のままだった。
「朝よ」
　さゆるの声にじゅんは全く反応しない。昨晩の夜の営みは激しかった。お互いの愛を貪り合い、共に歓喜の声を上げて果てた。
「じゅん」
　名前を呼んで軽く肩を揺する。それでも目を覚まさない。
　さゆるは顔を近づけた。じゅんの唇に軽く唇を合わせる。様子を見て、もう一度、キスをした。
　三回目をしようとした瞬間、じゅんに抱き締められた。瞼を開けない状態で、中途半端なのよ、と少し怒ったように言った。
　三度目のキスは長く、そして深く繋がった。
「おはよう、さゆる」
「もう終わり？」
「続きは今夜ね」
　じゅんはベッドから下りると居間へ駆け出す。ベッドの上部に置かれた時計は八時半になろうとしていた。
　さゆるは落ち着いた様子で寝室を出ていった。
　居間に入ると軽快なオープニング曲が耳に入る。じゅんはクッションに座ってテレビを観ていた。曲に合わせて身体をスイングさせる。その隣にさゆるも座り、一緒にアニメを楽しんだ。
　その後、朝食のサンドイッチを食べながら撮り溜めたアニメを一気に観た。
　見終わるとじゅんは笑顔で伸びをした。
「堪能したー」
「じゅん、そろそろ出ないと」
「もうエステの時間なんだね」
　立ち上がろうとして少しよろけた。さゆるは膝立ちとなって支えた。
「ごめん。少し足が痺れたみたい」
　じゅんは笑いながら言うとさゆるの頭を胸にやんわりと抱え込む。その姿で手櫛を入れるように撫でた。
　さゆるは目を閉じて受け入れた。
「急がないとね」
　じゅんは小走りで洗面台へ向かう。さゆるは少し残念そうな視線で見送った。撫でられたところに手を当てて、好き、と小さな声で呟いた。

　二人は手を繋いで歩いた。予約を入れた店は同じ星ヶ丘にある。あと数分で到着する。
　さゆるは握る手に少し力を込めた。じゅんは素知らぬ顔で握り返した。
　他愛ない行為に喜びを感じ、さゆるは恥ずかしそうに目を伏せた。
「じゃあ、またあとで」
「そうね」
　店内で別れた二人は二時間のフルコースで自身を磨く。生まれ変わったような肌で再開すると馴染みのカフェに立ち寄った。
　窓際のテーブル席で適当に注文すると、じゅんはコップの水を一気飲みした。
「お酒じゃないのが残念だけど、生き返った気分ね」
「飲酒は程々にしないと」
「あのね。プロムナードで売上トップを何回も取ったあんたがそれを言う？」
　さゆるは掌を見せた。
「トップは五回ね。凄いけど、まみちゃんは負けてないんだから。コアなファンが推していてトップは」
　さゆるはもう一方の手でピースサインを作った。
「そう、トップは七回なんだから。でも、なんで知ってるのよ」
「好きな人のことは、なんでも知りたいから」
　さゆるは視線を逸らし、恥じらうように言った。
「なんなのよ。可愛すぎでしょ」
「今夜、たくさん愛して」
「当たり前じゃない。あたしが我慢できないよ」
　そこに注文したパスタが届き、どちらも目を伏せて無言となった。
　じゅんは上目遣いでさゆるを見た。
「今の話、聞かれてないよね？」
「どうだろう。別に知られてもいいけど。ここは同性婚が許された寝子島だから」
「それも、そうね」
　じゅんは笑ってフォークを持った。くるくるとパスタを巻いて口に含む。
「良い感じのアルデンテで、このクリームが美味しい」
「口に付いてるよ」
「じゃあ、取って」
　僅かに腰を浮かせたじゅんが目を閉じる。さゆるは人目を気にせず、キスをするように舐め取った。
　その直後、自然な笑みを浮かべた。
　――あたしには無縁だと思ったのに、これが幸せなのね。
　さゆるはじゅんを愛でながらパスタの味を堪能した。

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