転がる不法投棄　from 宇宙｜リアクション

転がる不法投棄　from 宇宙

【１５番ホール外れ　吹きさらしの車庫（注：私道以外での無免許運転は犯罪です）】

　富士山をしばし呆然と見上げていた北原みゆきは、スマホ片手にある場所へと走り出していた。

　まさか、こんなかたちで本土の土を踏むことになるなんて。

　絶望にも似た気持ちのまま、コース外れにある車庫を目指す。

　戦闘には不向きなみゆき。場違いさと無気力感を持ちながらも、自分にできることはないかと精一杯考えた末の結論が、ここだった。
「あった」
　コースを移動するときに利用する、ゴルフカート。耐久性に乏しく速度もさほどに期待できないが、移動には便利だろう。散り散りになっている仲間たちを巡り、救護役を担うのがみゆきの目的だった。
　ゴルフカートを盗む奇特な輩は皆無なのだろう。案の定、エンジンキーはかかったまま。
（私有地だから……運転しても違法じゃないよね）
　運転席につくと、助手席には常備の小型救急箱を置く。
「よし」
　気合いを一つ入れ、エンジンを入れる。

　草むらから影が飛び出したのはそのときだった。心臓の飛び出る思いとともに、とっさに身を低くするみゆき。影はターゲットのダンゴムシではなく、人であるらしい。
「誰かいるのか」
　聞き覚えのある声質だった。おそるおそるで顔を出すと、
「修くん」
　知り合いだったことにほっと胸を撫で下ろす。カートの前で立つ八神修も、みゆきの姿を見て警戒の色を解いた。
「北原はそれを移動手段にするのか」
「うん。私にはみんなを救護するくらいしかできることないし」
　一応戦う手段も持っているけど、と救護箱を横目で見る。
「そうか。いつも有難うな」
「修くんはここで何を？」
「俺は戦闘用の乗り物を調達に来た」
　居並ぶカートの端にあるひと際大きな塊。覆うシートをはがすと、暗がりの中に重機が出現する。
「ショベルカーあたりが理想だったが」
　ゴルフ場には欠かせない芝刈り機。一般的なものよりも少し大きなサイズを見上げながら修は、そう贅沢は言っていられないか、とシートに上がる。
「さすがにエンジンキー……ささってないよね」
　カートのハンドルをがっちり握りながらみゆきが尋ねる。
「ああ。だから俺は荒技を使う」
　応えると、躊躇なしにダッシュボード付近を分解しにかかる。配線をむき出しにすると、持参していたペンケースからカッターを取り出す。
「ちょうど家で勉強中でな」スマホの明かりを頼りに、器用に配線をいじり出す。「少し時間はかかりそうだな」
　相変わらず二枚も三枚も抜けているな。感心しながらみゆきは、修のスマホを見てあることを思い出す。
「そうだ、ねこったーで真央ちゃんがつぶやいてたよ。修くんの知恵を借りたいとかなんとかって」
「ああ、そういえばメールが来ていたな。こいつが動くようになったら、途中で拾ってやろう」
　走り出すみゆきのカート。ヘッドライトがないのは少々不安だが、速度を出さなければ問題ないだろう。
「怪我をしたら呼んでね。これで駆けつけるから」
「ああ、頼むよ」

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