転がる不法投棄　from 宇宙｜リアクション

転がる不法投棄　from 宇宙

【５番ホール　ご機嫌な体育会系と、不機嫌な文化系、あとゴロン】

　夜の寝子島。静けさに包まれる街並を切るようにして、鋭い滑走音が鳴り響く。

（たまにはマウンテンボードもいいな！）

　風が前髪を乱すのも意に介さず、工藤耀はシーサイドタウン大通り沿いを疾走する。スノボサイズの板に四輪が付いたマウンテンボードは、普段使っているスケートボードよりも安定感があり、板上の耀は深夜のテンションもあってか、散歩どころではない高ぶりを感じていた。

（これならどんな道でも走れるな。どっか面白そうな道、ないかな）

　前方に見える下りの階段。スケートボードで慣らした技術の見せ時だ、と重心を低くし、ボードをしならせる。
「よっ」
　後ろ足で蹴ると、耀はボードごと宙の人となり、段差を飛び越えた。

「ん？」

　視界を光が埋め尽くしたのはそのときだった。直後、目の前には深く伸びた草たちが広がっていた。
「うわ！」
　繁る草むらに突っ込む。

「いてて」
　ボードを下り、擦りむいた手の甲をかばいながら、草むらを出る耀。そこでようやく、周囲の異様な景色に気づいた。
「あれ、えーっと……」
　見慣れた街並はなく、代わりに見渡す限り鮮やかな緑の芝生があった。空は広く、明るい月が耀を見下ろしている。
「なんで俺ゴルフ場にいるの？」
　とぼけた声で、乱れた髪を掻く。今立っているのは、コース上のフェアウェイの端。突っ込んだ草むらはOBと呼ばれる場所だったのだろう。
「まさかボードの練習をここで思う存分していいよ、っていう神様からの少し早い誕生日プレゼント……って、ん？」
　そのフェアウェイの中央に、２つの影があった。

　部屋着姿でラフな格好の小山内海と、つなぎを着込んだ鷲見貫司。２人はなぜか、筆とパレットを持って向かい合い立っている。
（あれ？）
　課題の彩色でキャンバスに向けてひたすら筆を動かしていたはずの海。勢い余って、貫司の顔に色を塗りたぐりそうになる。
「あぶな！」
　すんでで避けた貫司もまた、絵を描いている途中でここへ転送された。木天蓼大学芸術学部に所属する貫司は、仲間と開く個展に向けて、自室で風景画を描いていた。青一色だったはずの風景が、途端に真っ黒な闇の下へと一転したわけだ。
（ごめんなさい！）
　海は謝ろうとしたが、スケッチブックが手元にないことに気づく。これでは意思疎通が円滑にできない。

（困ったな……）
　頭を下げる海を尻目に、
「なんなんだよ一体……部屋にいたはずなのにわけわかんねぇ。やらなきゃいけない作業があるってのに……」
　怒りをあらわにする貫司。
（私も課題があるのに）
　貫司に触発されたか、海も珍しくいら立ちを隠せない。
「お前、なんか知らないのか」
　寄って来た耀に向けて尋ねるが、ボードを脇に抱えた耀は肩をすくめるだけ。
「ノってるとこだっつーのになンだってんだ！　クソが！」
　筆を地面に投げつけようとしたところで、足元の手紙に気づいた。
「ん、なんだこれ」
　拾い上げ、読み始める。海と耀も両脇から覗き込む。

　彼らから少し離れた場所、コースのスタート地点にあたる高所では、直径５メートルはあろうかという大きな玉の影が、ゴロンと転がり始めていた。

このページにイラストを設定する