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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
雛の祭りに思いを馳せて。
ひな人形の前で、娘の楓が大はしゃぎしているのを梓 智依子は、微笑ましくもハラハラしながら見守っていた。最初こそ、スマホを構えて何枚かひな人形と楓の写真を撮る余裕もあったけれども、楽しげにぴょんぴょんと跳ねまわり出したらもう気が気じゃない。
ゆえにグッとスマホを握り締め、止めたものかこのまま見守ったものか、逡巡する智依子に祖父母が、懐かしいわねぇ、と微笑んで。――何を言われているのか察した智依子の、頬が少し恥ずかしそうに染まる。
（小さい頃は私もこんな風だった、って）
正確には、幼い頃の智依子は家の中で大人しくお人形遊びをするよりは、庭先で遊び回るのが好きな子だったらしい。その快活さが、8歳の智依子がダンスを始めるきっかけになった――とまではいかないだろうが。
とまれ、智依子はそんな子どもであって、その娘の梓が快活にぴょんぴょん跳ねまわるのが、それを思い出させる――と言いたいのだろう。そう理解して赤くなった頬のまま祖父母を見れば、クスクス笑いだけが返ってきた。
ふぅ、とため息を吐く。そうして、そんな快活な子供であった智依子が生まれた時からあるこのひな人形ならば、少々の事では崩れないだろう――とこちらは期待も多分に含めながら、先程までより少し安堵して楓の様子を見守った。
（昨日から楽しみにしていたものね）
この雛人形を飾ったのは、まさに昨日の事だ。智依子達が箱から人形やお道具を1つ1つ取り出す間に、祖父が雛壇を組み立ててくれた。
そこに人形を並べていくのは、家の中では1番背の高い智依子の仕事――だったのだけれど。天辺のお内裏様とお雛様を、どうしても自分で並べるのだと楓が抱え込んでしまったので、やむなく抱っこしてどうにか並べさせたのである。
そのおかげもあってか、楓は昨日から何度もお内裏様とお雛様を満足そうに見上げては、あしたがたのしみね、と話していた。その念願叶っての今日とあっては、興奮するのも仕方がない。
仕方がない、が、
「そろそろ落ち着かないと、お雛様達が落っこちて来ちゃうわよ」
幾ら何でもさすがにと、窘めた智依子に楓が「はーい！」と良いお返事をして。ふふふ、と祖父母がまた優しく笑ったのだった。
◆
ちらしずしとハマグリのお吸い物をお昼に食べて、午後からは家族で近所の参道商店街に出かける事にした。そこで行われているという、ひな祭りのスタンプラリーに参加するためだ。
コンプリート出来るかはともかく、色々なひな祭りを見たり、イベントに参加する事は楓にとって良い経験になるだろう。ゆえに受付テントで手続きを済ませれば、人数分のスタンプカードと甘酒が渡される。
ふぅー、と少し冷まして口に含めば、米麹の優しい甘さが口一杯に広がった。3月とは言えまだ寒い、知らず冷えた身体に甘酒の暖かさが染み渡ると、智依子と祖父母で話していたら、こくりと飲んだ楓が顔をしかめて、智依子にコップを渡してくる。
「楓？」
「ママにあげる。へんなあじー」
そうして尋ねた智依子に、尋ねられた楓が衒いの無い感想を告げた。一瞬ぎょっとしたけれど、智依子が何か言うより早く、受付テントのおじさんの方が「ちっちゃい子はそう言う事が多い」と大笑いする。
ほっと胸を撫で下ろしてから、ぺこりと頭を下げて楓の手を引き、歩き出した。そうして、どこにひな人形があるのだろうと話しながら、のんびりと商店街を眺めて回る。
といっても、このイベントのために用意した、というよりはそれぞれのお店がひな祭りで飾ったものをスタンプラリーにしたのだろうか、どこにあるのかちっとも判らない、というものは殆どない。例えば店先に飾られた小さな豆雛だったり、店の奥にドドンと飾られた7段雛の場合もあったけれど、どれも趣があった。
それらを1つ、1つ鑑賞しては、スタンプをぺたんと押す。楓にとってはやはりいい刺激になったようで、豆雛を見て「ちっちゃくてかわいいー！」とはしゃいだり、家のものよりも大きなお雛様を見て「ママ、おっきいよ！」と飛び跳ねたりと、大興奮だ。
あまりに声が大きい時は窘めながら、そんな楓の姿をスマホに収める。――嗚呼、楓はまた大きくなっている、と感じた。
毎日見ていると成長に気付かない、なんてことも言われるけれど、楓の成長は毎日見ていても一目瞭然だ。それが眩しく、頼もしく、嬉しい。
（やっぱりこの子を生んで良かった）
そんな姿を見つめながら、智依子は幾度となく思った事をまた、強く思った。この子が居ない人生など――この子の居ない幸いなど、もはや智依子には考えられない。
ゆえにグッとスマホを握り締め、止めたものかこのまま見守ったものか、逡巡する智依子に祖父母が、懐かしいわねぇ、と微笑んで。――何を言われているのか察した智依子の、頬が少し恥ずかしそうに染まる。
（小さい頃は私もこんな風だった、って）
正確には、幼い頃の智依子は家の中で大人しくお人形遊びをするよりは、庭先で遊び回るのが好きな子だったらしい。その快活さが、8歳の智依子がダンスを始めるきっかけになった――とまではいかないだろうが。
とまれ、智依子はそんな子どもであって、その娘の梓が快活にぴょんぴょん跳ねまわるのが、それを思い出させる――と言いたいのだろう。そう理解して赤くなった頬のまま祖父母を見れば、クスクス笑いだけが返ってきた。
ふぅ、とため息を吐く。そうして、そんな快活な子供であった智依子が生まれた時からあるこのひな人形ならば、少々の事では崩れないだろう――とこちらは期待も多分に含めながら、先程までより少し安堵して楓の様子を見守った。
（昨日から楽しみにしていたものね）
この雛人形を飾ったのは、まさに昨日の事だ。智依子達が箱から人形やお道具を1つ1つ取り出す間に、祖父が雛壇を組み立ててくれた。
そこに人形を並べていくのは、家の中では1番背の高い智依子の仕事――だったのだけれど。天辺のお内裏様とお雛様を、どうしても自分で並べるのだと楓が抱え込んでしまったので、やむなく抱っこしてどうにか並べさせたのである。
そのおかげもあってか、楓は昨日から何度もお内裏様とお雛様を満足そうに見上げては、あしたがたのしみね、と話していた。その念願叶っての今日とあっては、興奮するのも仕方がない。
仕方がない、が、
「そろそろ落ち着かないと、お雛様達が落っこちて来ちゃうわよ」
幾ら何でもさすがにと、窘めた智依子に楓が「はーい！」と良いお返事をして。ふふふ、と祖父母がまた優しく笑ったのだった。
◆
ちらしずしとハマグリのお吸い物をお昼に食べて、午後からは家族で近所の参道商店街に出かける事にした。そこで行われているという、ひな祭りのスタンプラリーに参加するためだ。
コンプリート出来るかはともかく、色々なひな祭りを見たり、イベントに参加する事は楓にとって良い経験になるだろう。ゆえに受付テントで手続きを済ませれば、人数分のスタンプカードと甘酒が渡される。
ふぅー、と少し冷まして口に含めば、米麹の優しい甘さが口一杯に広がった。3月とは言えまだ寒い、知らず冷えた身体に甘酒の暖かさが染み渡ると、智依子と祖父母で話していたら、こくりと飲んだ楓が顔をしかめて、智依子にコップを渡してくる。
「楓？」
「ママにあげる。へんなあじー」
そうして尋ねた智依子に、尋ねられた楓が衒いの無い感想を告げた。一瞬ぎょっとしたけれど、智依子が何か言うより早く、受付テントのおじさんの方が「ちっちゃい子はそう言う事が多い」と大笑いする。
ほっと胸を撫で下ろしてから、ぺこりと頭を下げて楓の手を引き、歩き出した。そうして、どこにひな人形があるのだろうと話しながら、のんびりと商店街を眺めて回る。
といっても、このイベントのために用意した、というよりはそれぞれのお店がひな祭りで飾ったものをスタンプラリーにしたのだろうか、どこにあるのかちっとも判らない、というものは殆どない。例えば店先に飾られた小さな豆雛だったり、店の奥にドドンと飾られた7段雛の場合もあったけれど、どれも趣があった。
それらを1つ、1つ鑑賞しては、スタンプをぺたんと押す。楓にとってはやはりいい刺激になったようで、豆雛を見て「ちっちゃくてかわいいー！」とはしゃいだり、家のものよりも大きなお雛様を見て「ママ、おっきいよ！」と飛び跳ねたりと、大興奮だ。
あまりに声が大きい時は窘めながら、そんな楓の姿をスマホに収める。――嗚呼、楓はまた大きくなっている、と感じた。
毎日見ていると成長に気付かない、なんてことも言われるけれど、楓の成長は毎日見ていても一目瞭然だ。それが眩しく、頼もしく、嬉しい。
（やっぱりこの子を生んで良かった）
そんな姿を見つめながら、智依子は幾度となく思った事をまた、強く思った。この子が居ない人生など――この子の居ない幸いなど、もはや智依子には考えられない。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年05月08日
- 参加申し込みの期限
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- 2024年05月15日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年05月15日 11時00分
