夜光照らす百花の先触れ｜リアクション

夜光照らす百花の先触れ

テーブルの上で庭園の案内マップを広げて、悩んでいる様子のカップルが居た。
「もしかして、どこに行くか迷われてます？」
　思わずヴィーゼが声をかけると、カップルはちょっとびっくりした様子を見せた後、「そうなんです」とおずおずと。
　そこでヴィーゼ、これまでにお客様から聞いた話を思い返すことこの間一秒。
「でしたら、八重橋はいかがです？　他のお客様からもよく話題にあがるんです。もしかしたら、一番かも」
「そうなんですか？　じゃあ、八重橋にしようかな……ありがとうございます！」
「素敵な夜を過ごすお手伝いができたみたいで良かったです」
　ホッとしつつも目を輝かせたカップルに会釈をひとつ、テーブルを離れる。
　そのままキッチンカーの方へ戻ると、エプロンを外した七瀬と顔を合わせた。
「七瀬くん、上がりだっけ？」
「いえー、これから休憩です。すぐ戻ってきますー」
　休憩に入る七瀬を見送りつつ、自分も落ち着いたら梅を眺めつつコーヒーを頂きたいなと思うヴィーゼだった。余裕あるかしら。

　　　　　　　　　　　　　　　　◆

　休憩に入った七瀬は、スマホのカメラで梅林をパシャリ。
　さらにもう何枚かパシャパシャやって、良さげなのが撮れたところでNYAINを起動。
　ウォルター・Bに向けて、撮ったばかりの写真と共にメッセージを送る。
『梅の花が綺麗です。ウォルターさんも、今度お時間ある時に観てみては？』
　庭園内は電波状況があまりよくないのか、ごくごく短い通信待ちの時間があった。
　秒数にすれば、一秒あるかないかの本当に短いもの。だけどそのわずかな時間を、七瀬はやけに長く感じてしまう。スマホを持つ手が、そわそわしてしまったくらいだ。
　無事に送信が完了したのを確かめると、七瀬の口元にほんのりと笑みが浮かんだ。
　スマホをしまって、ぐっと伸びをひとつ。
「……さて」
　梅のおすそ分けもしたところで、残りの時間もお仕事を頑張らなければ。