携帯戦記カプセルギア　第九話「生まれ変わる、カプセルギア！」｜リアクション

携帯戦記カプセルギア　第九話「生まれ変わる、カプセルギア！」

　数十分前――。
　秀光は警察から、不審な動きをする者が複数名確認されていると報告を受け、苦渋の末にパーティの続行を決断した。しかしそれは、ただ子供達を残念な気持ちで帰したくないという思いだけでは無い。

　――「ここでお開きにすることで、子供達の安全は保証されますか？」

　何らかの悪意を持つ者が、この場に居る。おそらくユグドラシルの息がかかった、子供達を巻き込むことに躊躇いも無い連中だ。それを会場から解き放ってしまったとき、警察はどう対応するのかと秀光は問うた。
　１人だけなら尾行が可能でも、複数人いるとなれば話は変わってくる。全ての子供達が安全に遊ぶために必要であれば、自分が囮になることも辞さないと覚悟を決めた顔で言ったのだ。
　清恋としても、それだけ警察を信頼してもらえたことは嬉しく、一網打尽のチャンスである今を逃す手はないと思う。
　しかし今回の任務は、あくまで『イベントの警護』で『ユグドラシル関係者の確保』ではない。参加者の安全だけを考えたなら、お開きにすることが望ましいことは明白だ。
　だが清恋は、『参加者』ではなく『子供達』を守りたいと思い、率直に伝えた。
「……私は、主催の意向を聞くべきだと思います」
　指揮官である亀二郎に向かっての意見。上下関係を考えればあり得ないことだが、亀二郎は気を悪くすることもなく、穏やかな表情で白い髭を撫でている。
「うーん……管轄外、と切り捨てるわけにもいきませんしねぇ」
　有事を想定し、秀光と警察との間では事前にある取り決めが行われていた。そのひとつが、危険を感じたら必ず合図を送るというもの。普通の現場であれば、暗号化されたデジタル無線で一斉に指示を出せる。けれど、相手は様々な分野で活躍していた世界的大企業……まして、世界を股に掛けた悪の組織だ。傍受は容易でないとは言え、できないと油断する方が危険だと、こうして身振り手振りの物が採用されて双方認識の徹底に当たった。

　そして今、秀光から合図があった。
　私服制服関係なく、より周囲への警戒を強める中で、秀光は物怖じせずに壇上で新作の紹介を続けている。
「展開媒体の基本はスマートフォン。だが、従来のアプリに新要素を追加するのは難しいと判断し、新規アプリでの提供となる。もちろん、持っていない子は安価な簡易端末でも遊べるよう調整中だから、安心してほしい」
　場内には、そんなに凄い新要素なのかとどよめきが起こるも、幾人かは動揺も見せず秀光を凝視していたり、ブツブツと呟いては１人ニヤニヤ笑っている姿が見られた。
　スライドを駆使しながら、懸命に警察の準備が整うように時間を稼いでいた秀光も、やや緊張しながら敵の狙いを考える。新作の情報、単なる逆恨み、それとも――。
「さらに、サポート機能の改良だ。今までは、高機能ＡＩであるA.I.C.O.にサポートされていたと思う。しかしこれからは、違う形でサポートに入ることになると言っておこう」
　期待と不安が混じり合う場内で、突然スピカが大きな拍手を持って場を鎮めた。
「つまり……A.I.C.O.は、なくなってしまう……ということ？」
「そうだな、改良というのは適切ではなかった。新アプリでは……A.I.C.O.を使用していない」
　その言葉を聞いて動揺したのは、スピカだけではなかった。程度はどうあれ、A.I.C.O.を頼っている人からすれば、それは斬新な改革でも何でもなく別の玩具だ。
　次第と不満を覚える人達の声を味方にして、スピカは大仰に落胆してみせる。自分の遊び場を守り、ひいては皆がカプギアで遊べるようにと懸命に動いたのに――結局、愛光堂はそれを手放すのだ。
「貴方たちに……任せられないのは、わかった……それなら、私は……力尽くで、奪い取る！」

　トライアルβが戦闘態勢に入ると共に、それに続いて複数のギアが同じように起動する。
　それを遠目にクスクスと笑いながら観覧している一団がいた。……児童公園でアンケートと称して声をかけ、特殊なパーツを配っていた奴らだ。
「さぁ、やりなさい。『パーティ』の始まりよ。皆で“お祝い”してあげましょう――新たな秩序の誕生を！」