ずっとあなたといたいから｜リアクション

ずっとあなたといたいから

●鍵付きの小箱
「ワットはここで待ってて」
　土産物屋の入口で、ウォルターと別れ、柚春は一人で店内に入った。
（鍵付きの小箱が欲しいけど、あるかなあ）
　本当は、二人の名前が書かれた恋人証明書を、大切にしまうつもりだった。
　大事に鍵をかけて、この想いがどこにもいかないように閉じ込める。
　タイムカプセルのようなものになればいいと、柚春は思っていた。
（それはできなくなっちゃったけど……だからって、証明書を捨てることも、僕にはできないから……）
　どんなことでも、過ぎれば思い出。いつか今日のことを、ちょっとした失敗談みたく、笑って話せるようになればいい。
　そんな日が来ると信じて――。

「あっ、これがいいかも。ちゃんと鍵もふたつついてるし」
　柚春は、数多くの品の中から、手のひらサイズの箱を手に取った。
　ステンドグラスみたいな、きらきらした模様がついた箱。
　これなら見るだけで、あの教会を思い出せる。
　恋人証明書をしまったら、鍵は、ウォルターとひとつずつ持つつもりだったけれど……。
（今渡すのは変だよね。ワットは証明書に名前を書いてくれなかったし）
　いつか、名前を書いてくれたときに渡そうと考えながら、レジに向かう。
　だが、その足取りは一歩ずつ、重くなった。
（いつかいつかって、僕はいつかばっかりだな）
　ため息が漏れそうになり、唇を引き結ぶ。
（暗い顔をしちゃだめだ。この箱はこんなに綺麗じゃないか）
　柚春は箱を見つめた。
　と、ステンドグラスの飾りの部分が、突然輝き、驚いた。
（なんで？　なにかの光が反射した？）
　きょろきょろと回りを見るが、わからない。
　まあいいかと思って、今度こそレジへ向かう。
　支払いを済ませて店を出ると、ウォルターが待っていてくれた。

「……お待たせ」
　声をかけるが、いつものように、微笑むことはできない。
　ウォルターも気まずそうだ。
（このまま森の館に行ったら、メアリさんが心配するかもしれない）
　思っても、今のウォルターに何を言ったらいいか、柚春にはわからなかった。
　ここが寝子島だったのなら、別の家に帰ればいいだけのこと。
　今日は、それができない。
　逃げられない。ごまかせないのだ。お互いに。

　柚春とウォルターは無言のまま、森の館へと通じる道を歩いた。
　木々の葉が、さやさやと風に揺れている。
　最初は静かに心地よく。
　でもそちらにウォルターが顔を向けた直後、急に強い風が吹いた。
　ごうっと響いた突風は、葉を何枚も巻き込んで、そのうちの1枚が、ウォルターの顔に当たる。
　そして別の1枚は、ふんわりと柚春の頭にのった。
「え……こんなことってある？」
　ウォルターの顔に当たり、地面に落ちていく葉を見て、柚春が呟いた。
　落ち葉という色でもない、緑の葉だ。
（それがいきなり舞ってくるなんて……）

　と、頭の上に、ウォルターの手が伸びた。
　ふわり、髪に触れる指。
　撫でられたのだと思って、驚く柚春。
　しかしすぐに、ウォルターが、頭にのった葉をとってくれたのだと気がついた。
「ナイトがいるようだね」
「……ナイト？」
　柚春は意味がわからない。
　ウォルターも、説明する気はないのだろう。とった葉を柚春に渡し、再び歩き始めた。