ずっとあなたといたいから｜リアクション

ずっとあなたといたいから

●森の館
「おかえりなさいませ。お城はいかがでしたか？」
　チェックインした部屋に行くと、メアリが笑顔で迎えてくれた。
「うん、さすが本物って感じだったよ。いろいろな部屋があって、面白かった」
　できるだけ明るい声を意識して、柚春が答える。
　嘘は言っていない。部屋はとても興味深かったのだ。
「それはよかったです。私も中を歩いてみましたが、お部屋を回ることはしなかったので」
「懐かしい空気は味わえた？」
　ウォルターがメアリに尋ねる。
「ええ、素敵でした」

　その後は夕食を食べに、森のレストランへと向かった。
　ランチのときと同じようにイギリスの味を堪能し、お腹はいっぱい。
　食事の間はずっと柚春が話していた。
（だってワットと一緒に来ているのに無言だったら、メアリさんが変に思うし）
　ウォルターは相槌をうちながら、にこにこと食事をしていた。
　きっと考えていることは、柚春と同じだ。
（メアリさんとの女子会、楽しみにしてたけど、大丈夫かな……）
　ついそんなことを考えてしまう。
　しかし、部屋に戻ってすぐに、それは杞憂だったとわかった。
　昼間、バラの間で選んだバラが届いていたからだ。

「オレンジのバラ、とても綺麗ですね！　本当に、わたくしがいただいてよろしいんですか？」
「もちろんだよ、メアリさん！　いつもありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
　メアリは、オレンジのバラの花束をふたつ、両手に抱えて微笑んだ。
　ひとつはもちろん、柚春が贈ったもの。
　もうひとつは、ウォルターが贈ったものだ。
　なんと偶然にも、二人は同じ花束を、メアリに選んでいたのである。
「ウォルターさまにも感謝をお伝えしなくては」
　花束の中には、送り主の名前と花言葉、本数の意味を書いたカードが添えられている。
　それを、愛おしそうに見つめるメアリ。
　その姿を微笑ましく見てから、柚春はもうひとつ、部屋に置かれていた花束に目をやった。

　色は緑。
　本数は18本。
　添えられたカードに書かれた花言葉は『穏やか』『希望を持ち得る』『誠実』。

（……僕は希望を持っていいってことなの？　それとも、一緒にいると穏やかな気持ちになれるとか、そういうこと？　誠実なのは僕？　ワット？）
　バラで想いを伝えられると思っていた。
　でもキーワードだけだと、こんなにもわからない……。
　花束を抱きしめ、柚春はうつむいた。
（ワットは僕が贈った黒バラの花束を見て、何を思っているんだろう）

『永遠の愛』を示す黒。
『ずっと一緒にいてください』の9本。

「柚春さま、私はウォルターさまのお部屋にまいりますが……」
　黙り込んでいる柚春に、メアリが声をかけた。
「僕はあとで行きます。それか……遅くなるようなら明日にでも」
「そう……ですか。わかりました。ではわたくし一人で、お礼を伝えてまいりますね」
　なにか思うところはあったはずだ
　でもメアリは深くを聞かず、ウォルターの部屋に向かって行った。
　この部屋から直接隣室につながる扉をあえて使わなかったのは、柚春に対する気遣いかもしれない。

　ドアが閉じた直後、柚春はため息をついた。
「わかんない、わかんないよ、ワット……」
　できることならウォルターのほうから部屋に来てほしい。直接言葉を伝えてほしい。
　メアリは今頃、二人から同じ花束を貰ったことを、楽しく話しているのだろう。

　添えられていたカードの裏を見ると、花瓶に生けなくても日持ちをするような処理がされていると書いてあったので、花束のまま、テーブルの上に置いた。
　一泊して持ち帰るのならば、その方が都合がいい。