ずっとあなたといたいから｜リアクション

ずっとあなたといたいから

●メアリと
「……お茶でも飲もうかな。それともお風呂の準備でもしようか」
　いったん椅子に座ったところで、メアリが帰ってきた。
「戻りました、柚春さま」
「……先生、どうでしたか？」
「柚春さまの花束、とても喜んでおられましたよ」
　笑顔で告げてくれるが、本当だろうかと思いながら見てしまう。
　いぶかしむ眼差しを怪訝に思ったのだろう。
「柚春さま？」
　メアリが首を傾げたので、柚春は慌てて立ち上がった。
「お茶でも入れましょうか」
「それならわたくしが」
「ううん、僕にいれさせてください。感謝を伝える代わりに」
　茶目っ気を込めて言えば、花束を渡したばかりだからか、メアリが「ではお願いいたします」と言ってくれる。
　部屋には紅茶と緑茶の準備があったが、柚春はあえて緑茶を入れた。
　それを、二人、ソファに座って飲む。

「ウォルターさまは、受け取ったバラを生花のまま飾るか、ドライフラワーにするか悩んでおられましたよ。花の終わりを見るのはさみしいけど、生き生きとした姿を見ていたいと言って」
「えっ……そうなんだ」
「はい。柚春さまに対する想いと同じなのかもしれませんね」
「僕？」
　目を見開いた柚春を慈しむように、メアリが眉を下げる。
「ウォルターさまは、家でも柚春さまのことを話しておられます。『あの前向きさは若さだよねえ』『にこにこしてるのはいいよねえ』と」
「メアリさんそれ、ワットの口調……似てるっ……」
　柚春は、思わずぷっとふきだした。
「ウォルターさまには内緒にしてくださいね」
　はにかむメアリ。しかしその顔は、すぐに真剣なものになる。

「……ウォルターさまは『いいのかな』とおっしゃっていました」
「……なにが」
　メアリの声のトーンが変わったことで、柚春から笑顔が消えた。
　メアリが話してくれるのだから、ウォルターに口止めはされていることではないのだろう。
　あるいは、メアリが柚春に話すとは思っていなかったのかもしれない。
　それか、聞かれていることすら気づいていなかったのかも。
（これは聞いてもいいことなの？）
　緊張で、心臓がぎゅっとする。
　その上のあたりに手を置いて、柚春はメアリの唇が動くのを待った。

　こわい。でも聞きたい。
　メアリが口を開く。

「柚春さまに『こんなに想われて』と」

　なんでそうなるの、と叫びそうになった口を、柚春は押さえた。
　代わりに、くぐもり震える声で聞く。
「メアリさんは、僕が先生に贈ったバラの本数、知ってる……んですか？」
「いいえ。黒バラだったのは見えましたが、それ以上は」
「……そうですか」
　なぜかわからないけれど、ほっとした。

「ワットは、なにがそんなに不安なんだろう……」
　それは、答えを求めたわけではない、独り言だった。
　しかしメアリは、丁寧に返してくれる。
「教職であること。年の差があること。要素は少なくはないでしょう」
　それは柚春もわかっていたことだった。
　わかっていても大きくなっていく想いを止められず、今がある。
「だよね……。なにかあったら責任を問われるのは、大人のほうだし」
　メアリは無言だ。
　そしてきっと、無言は肯定。
　愛があれば歳の差なんて、と聞いたことはあるけれど、16歳と36歳の壁は、おそらく、柚春が考えるよりずっとずっと厚いのだ。
（僕はどうしたらいいんだろう……）
　黙したまま、考える。
　でも考えてどうにかなるものではないことは、柚春にもわかっていた。