「イギリスってどんなところなんだろう……」
図書室で借りたイギリスの写真集を見ながら、
稲積 柚春は呟いた。
大好きな
ウォルター・Bが、寝子島に来るまで暮らしていた国。
もちろん、地理や歴史の授業で勉強はした。
それも、ウォルターの母国のことだからと一生懸命。
「でもやっぱり、行ってみたいよね……」
そう思ったから今日、柚春は本屋で、イギリスの旅行雑誌を買ったのだ。
高校生である柚春が今すぐに行くことは無理だとしても、せめて教科書で知ったこと以外のイメージを膨らませたい。
「それで、いつかワットと……」
(一緒に行くとしたら、単なる旅行? それとも新婚旅行?)
「って、先走りすぎだよ!」
柚春は雑誌を抱きしめ、ベッドの上に寝転がった。
「ああ」とか「うう」とか呻いてもだもだ暴れたところで、ふうっと長く息を吐く。
「とりあえずこの本見てみよう。イギリスのどのあたりにいたんだろう、ワット……」
柚春はゆっくりとページをめくっていった。
イギリスといえば紅茶やスコーン、綺麗な宮殿や教会、雄大な自然と広い庭のイメージだが、まあだいたいはそんな感じらしい。
――と、思っていたら。
「えっ? イギリスのお城が、日本に移築されてるの!?」
『イギリスのお城は日本にもあります』と表題が書かれた、小さな記事に、柚春の目は釘づけになった。
雄大な自然の中にたたずむお城の写真は、とても日本とは思えない。
記事にお城の情報を載せたサイトのURLが書かれていたので、柚春はさっそく、そのサイトを見てみることにした。
※
「――っていうことがあったんだけど、ワット、知ってる?」
寝子高の英語科準備室にて。
偶然二人きりになったタイミングで、柚春はウォルターに、城の名前を告げて問いかけた。
「ああ、それは歴史で習ったお城だねえ。日本にあるのは知らなかったよ。移築ってことは運んだのか、すごいなぁ」
のんびりと言うウォルターに、柚春は「そうでしょ!」と身を乗り出した。
「本土でちょっと日帰りは難しそうな場所だけど、近くにホテルがあるんだ。あ、ホテルっていっても日本のビルみたい感じじゃなくて、カントリーハウスを真似て作ってあるんだって!」
「なるほどねぇ……。つまり……?」
「ワットと行きたいんだ、このお城に! 泊りで!」
「ははっ、そうなるよねぇ」
気づけば抱き着かんばかりに身をよせていた柚春の頭をポンと撫で、ウォルターが笑った。
「でもねぇ、生徒と二人でっていうのはちょっとねぇ」
柚春はうぅっと言葉を詰まらせた。
(もしかしたらそう言われるんじゃないかとは思ってたけど……。でも二人で行くのはだめってことは、他に人がいればいいってこと?)
うーんと唸ってしまいそうなくらい、柚春は考えた。
考えて考えて……はたと気づいたのが
メアリ・エヴァンズの存在だ。
「じゃあメアリさんも一緒なら? 二人じゃないからいいよね?」
「えぇ……?」
ウォルターが眉を下げる。
でも彼は、即座にNOとは言わなかった。
「どうだろうねぇ……いいのかなぁ……よくないかなぁ……」と、ぶつぶつ言いながら考えている。
(あと一押しだ!)
柚春はウォルターの青い目を覗き込んだ。
「この前、本土の節分に行ったよね? あれがよくて今回がダメな理由が、ボクにはわからないよ。それに泊りなのは帰ってこれないから仕方ないんだし」
そう言うと、ウォルターは言葉を詰まらせた。
「ねえ、お願いっ! 泊まるのはもちろん違う部屋にするからっ!」
柚春はぱんっと手を打って、お祈りでもするように、ウォルターに頭を下げた。
ウォルターはふっと息を吐いた。
「わかったよ。じゃあメアリも一緒に、部屋は別室でね」
「うんっ! ありがとう、ワット!」
柚春は破顔した。
メアリ・エヴァンズが一緒なら、ウォルターのことをいろいろ話せるかもしれない。
(ふふ、女子会みたく盛り上がっちゃったりして!)
他の先生が戻って来たので、スケジュールはまた後日決めることにして、ウォルターと別れる。
――その日の夜。
「なんだよ、またあいつとでかけんのか? あいつなあ……頼りになるんだかなんねえんだかわかんねえんだよな、飄々としてて。どうすっかなあ、オレも行くか……? うーん……」
柚春の夢の中には、緑林 透破が出てきていたのだが、目覚めたとき、柚春はそれを覚えていなかった。
瀬田です。いつもお世話になっております。
イギリスから移築されたお城で過ごすシナリオです。
どうぞご自由にお楽しみくださいませ。
お城について
雄大な森の中にイギリスのお城がそのまま移築されています。
お城にはいろいろな部屋があります。
自由に行き来して、お楽しみください。
衣装の間
女性用のドレス、男性用のタキシードが置かれている部屋です。
好きなものを身に着けることができます。
衣装は城内だけでお楽しみください。
香りの間
様々な香水が置かれている部屋です。好きなものを自由に使うことができます。
香りは記憶と結びつきやすく、記憶は感情を呼び起こします。
今日の思い出や記念にいかがでしょうか。
香水は買取可能です。
ルージュの間(別名:キスの間)
様々な口紅が置かれている部屋です。好きなものを自由に使うことができます。
キスをする場所によって、意味があるのはご存じでしょうか。
この部屋の口紅を塗った唇で該当の箇所にキスをすると、その想いがより強固になると言われています。
(たとえば喉にキスをすると、相手への強い欲求が生まれ、独占したいほどの愛情が強くなります)
口紅は買取可能です。
バラの間
様々なバラが飾られている部屋です。
誰がにバラを贈る場合、その色や本数に意味があるのはご存じでしょうか。
ここにあるバラのうち、種類や色、本数をご指定いただくと、その日の夜に、ホテルの部屋に届きます。
迷路の間
ふたつある出入口から別々に入った人同士が、中で出会えるかどうか。
想いの強さを試す部屋として使われています。
ティールーム
アフターヌーンティーを楽しむことができます。
お城周辺の施設
森のレストラン
軽食からディナーまで、シェフ自慢の食事を食べることができます。
宿泊時の食事は、森のレストランをご利用いただくか、森の館のキッチンで自炊していただく形になります。
朝食のみ、館にお届け可能です。
メニューは、イングリッシュブレックファスト(トースト、フライドポテト、ベイクドビーンズ、ベーコン、ソーセージ、目玉焼き)になります。
森の館
田舎にある小さなカントリーハウスを模した、平屋の宿泊施設です。
リビング、キッチン、ベッドルーム2部屋、バスルームがあります。
ベッドルームはツインが2部屋で、内部ドアにて繋がっています。
ドアは鍵をかけることができます。
森の教会
お城が移築された際に建てられた教会です。
美しいステンドグラスがはめ込まれた窓があります。
残念ながら挙式対応はしておりませんが、『恋人証明書』の発行をすることができます。
(証明書は公的な力を持つものではありません)