ずっとあなたといたいから｜リアクション

ずっとあなたといたいから

●バラの間
　隣の部屋には、さまざまな種類の鉢植えのバラが、所狭しと咲いていた。
「ここはバラの間だねぇ」
「すっごい綺麗！　バラってこんなに種類があるんだね」
　部屋を見回し、柚春は言った。

「柚春はどのバラが好き？」
「僕は……青いのと、白いのかな」
「それってもしかして」
「わかっちゃった？　前にワットがくれたバラのことだよ」

　誕生日プレゼントで年齢分、16本の青いバラを。
　結婚式体験では、5本の白いバラを。
「あのときはワットにお返事として１本渡したから、僕が持ち帰ったのは4本だけど」
「最近はマラソン大会で、ブルーローズの交換をしたねぇ」
　懐かしむ柚春に、ウォルターもまた思い出を語る。

「ワット、これってつまり」
「今はまだ先生と生徒だから、その後のことは、ね」

　マラソン大会のときは、お互いに１本の青バラに想いをこめて交換した。
（でも今、ワットはどんな思いをくれるんだろう）
　そう思ったら、試さずにはいられなくなった。
「ねえワット、また贈り合ってみようか！　別々に選んで、届いたときにサプライズ！　って感じで」
「それはおもしろいね。いいよ、やろうか」
「うん！」

　二人はそれぞれ別々に、バラを見て回った。
「メアリさんには……これかな。オレンジ。本数は８本！」
　意味は『感謝、平和、信頼』で、まさに柚春の想いぴったりだ。

「ワットには……どうしよう……」
　３本は『愛しています』
　４本は『一生気持ちは変わらない』
　５本は『あなたに出会えたことが、心の底から嬉しい』
　正直、どれもあてはまる。
（でも、愛してるって気持ちはずっと伝えてきてるんだよね。この気持ちが変わるはずなんてないし、ワットに出会ってない人生なんて考えられない）
　だったら今、あえて伝えたい気持ちは――。
（９本の『いつも一緒にいてください』だ……）
　今日も明日も明後日も、１年後も、３年後も、10年後も、もっともっとずっと先も。
（共白髪って言葉を知ったとき、感動したんだよね。僕はワットと年を重ねていきたい）

　本数は、９本に決めた。
　次は色だ。
　イギリスで紅白は良くないっていうし……といろんなバラを見ていたら、ピンク色のかわいいものを発見！
（そうだ、ピンクなら？）
　柚春は、本数と色の説明プレートに目を向けた。
　ピンクピンク、と探すと『上品』『しとやか』など、と書いてある。
　だがその次が……。
（赤ちゃんができました！？　こ、これでもないかな……）
　一瞬にして、羞恥に顔が染まってしまった。

　しかし、一覧を見るうちに、見つけた言葉。
（黒色……永遠の愛、これだ！）
　色のイメージ的には、プレゼントっぽくないかもしれない。
　永遠なんて、重いかもしれない。
（でもこれ以上に、僕の想いを伝えられる色はないよ）
　柚春は、メアリに贈るバラと、ウォルターに贈るバラの色と本数を紙に書き、部屋の入口にある入れ物に入れた。これで、今晩泊まる館に希望のバラが届くのだ。

「ワット、決まった？」
「うん、決まったよ」
　おそらく記入済みなのだろう。ウォルターが手にした紙を持ち上げる。
　それも入口の入れ物に入れて、二人はバラの間を後にした。

　※

「ワット、次はどこに行く？」
「そうだねえ、どこも面白そうだよねえ」
　入口から部屋を覗きながら、城内の廊下を歩く。
　途中、ドレスとタキシードを着たカップルとすれ違った。
　二十代だろう。女性は綺麗にお化粧をしていた。真っ赤な口紅が目を惹く。
（もしかしたらあんなふうにきっちりお化粧したほうが、ワットは好きなのかもしれない）
　ふと、柚春は思った。これまで柚春が出会った大人の女性は、みんな綺麗に化粧をしていたからだ。
（僕は目立つ色合いのリップはつけないけど……）
「ワット、次はルージュの間に行こう」
（それで、ワットに口紅を選んでもらうんだ。そうすればワットの好みがわかる！）
　柚春はウォルターの手を取って、引っ張るように部屋に向かった。