ずっとあなたといたいから｜リアクション

ずっとあなたといたいから

●お城へ
「ウォルターさま、柚春さま。お城はどうぞお二人で楽しまれてください」
「えっ、メアリさんは？」
「わたくしはもう少し休憩してから、のんびり参ります」
　そう言うメアリと別れ、柚春とウォルターはお城へ向かった。
　森の館でチェックインをすませた後のことである。
　柚春が事前に予約をしていたため、入城の手続きはすんなりだ。
「こちらが、お城のパンフレットになります。森の教会へは行かれますか？」
　築城時代の衣装に身を包んだ係員の女性に聞かれ、一人で受付を訪れていた柚春は「はいっ！」と力いっぱいに答えた。
　その勢いに、女性が一瞬驚いた顔をする。
　しかしすぐににっこり笑って「それならこちらをどうぞ」と『恋人証明書』を渡してくれた。
「……ありがとうございます」
（これが恋人証明書……）
　期待とともに見た用紙には、バラの透かし模様が印刷されていた。
　これに連名で名前を書くと「ここで愛を誓った」という証明になる。公的な効果はもちろんなく、いわば、カップルでここに来た記念のようなものだ。
（でも『証明書』って響きがいいよね）
　この証明書をもらうことは、ウォルターには言っていない。
（ワットは名前を書いてくれるかなあ）
　ドキドキしながら鞄にしまい、パンフレットだけ手に持って、柚春はウォルターのところへと向かった。

「お待たせ、ワット。ねえ見て、いろんな部屋があるよ」
　写真と説明付きの城内図がのっている部分を開いて、ウォルターに見せる。
　おすすめの道順が書かれてはいるが、決まったルートはないようだ。
「ワットはどこに行きたい？」
「そうだなあ。あ、衣装の間があるね。着替えなくていいのかい？」
「んー」
（ワットのタキシード姿を見たい気はするけど、それだとじゃあ僕はドレスってなるだろうなあ。でもドレスって移動が大変そうだよね）
　正直、あの明らかに動きが制限されそうな服装で、しずしずと歩き続けるのは柚春の性分にはあわない。
　自覚があるからこそ気がすすまなかったが、ウォルターが望んでくれるなら別問題だ。
「ワットは僕にドレス着てほしい？」
　少しの表情の変化も見逃さないぞ、というつもりで、柚春はパンフレットを見ているウォルターの顔を覗き込んだ。
　と、ウォルターの青い目が、柚春に向けられる。
「着たらきっと似合うとは思うけど、今の服装もよく似合っているからなあ。今着ている服、頑張って選んでくれたんでしょ？」
　微笑みながら告げたウォルターに、柚春の顔が赤く染まる。
「うん……」
　柚春はうつむいて、右耳のピアスを触った。ウォルターがくれた青いピアスだ。
　その様子を、ウォルターが見つめていることには気づかない。
　ただ柚春は、上目遣いにウォルターの左耳を見、彼もピアスをつけてきてくれたことに気づいて、嬉しく思っている。
（お互いの目の色のピアスを二人でつけてるんだもの、カップルに見えるよね、僕たち）
　恋人同士になったという確約は、まだ。
　でもそんなこと、言わなければ誰にもわからない。
　柚春はウォルターの側に寄ると、人差し指の先で、そっと彼の手に触れた。
「……いい？」
　微笑むウォルター。悪いとは言われなかったので、そのまま手を繋いで、二人は一番近い香りの間に向かった。

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