ずっとあなたといたいから｜リアクション

ずっとあなたといたいから

●メアリと、再び
「焦らないでくださいね」
　メアリは柚春に告げた。
「よちよち歩きのとき、ウォルターさまは焦って進もうとして、よく転ばれていました。それと同じです。準備ができていないのに急げば、転んでしまいます」
「準備……」
（僕はできてるつもりだけど、ワットはできてないってことなのかな。それとも、僕もやっぱりできてないのかな）
　テーブルの上に置かれたバラの花束を見て、考える。
　と、メアリが、ふふふ、と小さく笑った。

「どうしたの？」
「いいえ、すみません。よちよち歩きから少し大きくなった頃ですが、ウォルターさまが猫を追いかけて、猫が飛び上がった木に登ろうとしたことがありまして。かわいい姿を思い出して、笑ってしまいました」
「えっ、そんなことがあったの！？」
　普段メアリは、ウォルターのあれこれを語るようなことはしない。
　今はたぶん、柚春を元気づけようとしてくれたのだ。
　これが本当のことでも作り話でも、柚春の胸は、メアリの優しさに熱くなる。
（ほんとに、オレンジのバラがぴったりな人だ……）

　彼女の気遣いを察したからこそ、柚春は明るい声を出した。
「きっとかわいかっただろうなあ、ワット。なんか不思議な感じがしますね。僕よりもずっと年上のワットの、赤ちゃん時代」
「柚春さまにも、そのような頃があったのですよ。きっと愛らしい赤ちゃんだったでしょうねえ。もちろん、今も素敵なお嬢様ですけれど」
　微笑むメアリ。
　はにかむ柚春。
　その後はなぜか猫の話題になった。
　それから猫つながりで、猫マークのチョコレートメーカー「GODINYA」の話になり、イギリスのチョコやお菓子の話になった。
　核心を避け、ころころと変わっていく楽しいだけの話を柚春は楽しみ、楽しませてくれているメアリに感謝したのだった。

　――そして。
　夜遅くまで話し込み、柚春があくびをひとつしたところで、女子会はお開きになった。
　柚春が先に、メアリが次にお風呂に入って就寝。
　でも夜中、柚春は目が覚めてしまった。

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