【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ｜リアクション

【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ

　◆じゅんとさゆる

　合格発表の掲示板を前に、朝鳥さゆるの表情はいつになくこわばっていた。
　つきそいの姫木じゅんは――制服姿のさゆると違ってゴスロリドレスであったので人目を引いていた――くすっと笑って恋人を見上げる。
　じゅんの笑みの意図に気づいて、さゆるは堅くなっている自分の頬をそっと触った。
「……おかしい？」
「だって、さゆるがこんなに緊張してるの見たことないもん」
　本当ならＷＥＢで結果を確認すれば十分だと思っていたのだ。しかし、じゅんがどうしても見に行きたそうにしていたので、さゆるが折れるかたちで今に至る。
「自分の合格発表でもないのに、そんなに興味があった？」
「そりゃあね。恋人の未来が決まる瞬間だもの」
「落ちたらいたたまれないわ」
「その時は慰めてあげる。けど、さゆるが落ちるなんて思ってない。自己採点は大丈夫だったんでしょう？」
　それはまあ、とさゆるは頷く。高校の出席率は悪かったが、成績自体は悪くなかった。
　自己採点でも９割は取れたと確信している。
「大丈夫よ、さゆる」
　じゅんは、そっとさゆるの手に指を絡めた。
　どんな結果になっても一緒に見届けてあげる。
　そう言うかのように。
　さゆるは軽くじゅんの手を握り返して覚悟を決めると、番号に目をやった。
　受験したのは法学部法律学科。受験番号は0484だ。
「0475、0479、0483……0484！」
　番号を読み上げた瞬間、頭が真っ白になった。……0484！
「……本当にあたし、合格したの？」
「そうよ！」
　じゅんが自分を抱き締めるのも気づかぬくらい、さゆるは番号に見入っていた。
「……本当に……？」
「あはっ、合格よ！　すてき！」
　じゅんは大興奮して飛び跳ねているが、さゆるの息は止まったままだ。
　やがて体の感覚が戻ってきて、緊張が吐く息に合わせてほどけていく。
　知らず込み上げてきた涙が、さゆるの頬を伝っていった。

　合格発表をみたあとは、そそくさとねこでんで帰途に着いた。
　揺れる電車はいつもと同じ。観光客、サラリーマン、買い物に出るのだろうご年配のご婦人、今日は何の日でもない学生などが適度な密度で乗車している。
「さゆるが大学生になるなんて……ふふっ」
　隣に座るじゅんは妙にご機嫌だ。なにかよからぬことを――今度大学に潜入しようかなどと……しかもこう、背徳的なことを――考えているのではないかと訝しんださゆるに、じゅんは予想に違わぬことを囁いて来た。
　さゆるは自分がこんなに純情だったかと思うくらい顔を真っ赤にする。
「莫迦なこと言わないの！」

　ともあれ、さゆるは四月から、法学を学ぶ大学生兼キャバ嬢となるのだ。