【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ｜リアクション

【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ

　◆プロローグ～マタ大合格発表の朝

　２月末の某日、天気は晴れ。
　放射冷却で冷え込んだ朝は、その分、澄んだ青だった。
　見上げれば木々は春の準備を始めていて、新芽や蕾が膨らみつつある。
　そんな早春の匂いを嗅ぎながら、伊藤佳奈は玄関先で家族に声をかけた。

　「それじゃ行ってきます！」

　今日は先ごろ受験した、木天蓼大学の合格発表の日。佳奈が受けたのは文学部国文学科だ。
　発表はＷＥＢでも確認できるが、せっかくだから大学に足を運んでちゃんとこの目でみたい。
（昔から家に伝わる伝書なんかを読むために古文、漢文はお祖父ちゃんに教えられたし一番の得意分野だから自信はある……けど）
　佳奈は目的の大学へ行く前に、寝子島神社へ寄り道をすることにした。
　最後の最後の神頼みだ。
　小走りで本殿の前にたどり着くと、佳奈はお賽銭をあげて柏手を打つ。
　佳奈の夢は教師になること。マタ大合格は、そのための第一歩なのだ。
（神様！　どうか合格してますように。お願いします！）

◇

　おなじ朝。
　綾辻綾花は、猫鳴館の自室のカーテンを開けて、空を見上げる。
（昨日はなかなか寝付けなくてちょっと眠いです）
　自己採点では大丈夫だったけど番号を見るまでは確定ではない。やはり緊張しているのだろう。
　主人である綾花のドキドキを感じ取ったのか飼っているレンズ・キャットのクロワが足元にすり寄って来た。
「クロワ。きっと大丈夫ですよね」
　返事の代わりにクロワは大あくびをする。かわいくって癒されるあくびだ。
「ふふっ。クロワも寝不足ですか？」
　肩の力が抜けた綾花は、少し気分が良くなって身支度を整えた。
「行ってきますね、クロワ」

◇
　
　さてこちらは旧市街の八百屋、宮祀青果店。
　木天蓼大学商学部を受験した宮祀智瑜を見送りに、祖父と祖母が店先まで出てきている。
　智瑜ちゃんなら大丈夫、と励まされた智瑜は、祖父母の手を取ってしっかと握った。
「すっごくドキドキしますけど、見てきますね」
　智瑜は大学で、経営について学びたいと思っている。
　大学卒業後に宮祀青果店を継ぎたいと思っているからだ。
　そのことは、小さい頃に両親が他界してからずっと大切に育ててくれた祖父母にはもう伝えてある。
　話をしたとき祖父母は、自分のことを一番に考えていいんだよ、といいつつも嬉しそうであった。
　祖父母に恩返しをするためにも、受かりたい。
　歩き出した智瑜は、振り返って祖父母に元気よく手を振った。
「いってきまーす」

　この朝、たくさんの受験生たちが、ドキドキを胸に木天蓼市にある木天蓼大学本校へと向かった。
　合格発表は１０時である。

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