二月の魔法は春を呼ぶ｜リアクション

二月の魔法は春を呼ぶ

　そしてふたたび、現在。

　千絵がいないのはある意味好都合だ。サプライズパーティにできるかもしれない。
　パーティの計画について真白は話した。
「送別会アンド慰労会ってやつやね」
「うん、そうそう。パーティーっていうかみんなでワイワイしない？　っていうお誘いですよ」
「いーじゃん！」
　紅美は賛成だ。もちろん陣も異存はない。決めるべきは日程と場所だろう。
「受験の結果が出るのがこの日で、千絵ちゃんの出立がこの日だからその間だと候補はこの日とこの日って感じ？」スマホのカレンダーを表示させつつ真白は述べる。「紅ちゃんも七枷くんはどうかな？　いい感じの日ってある？」
　日程はとくに問題はなく、候補日はすぐに絞りこめた。
「あとは場所かなー。できれば『クラン＝G』を使わせてもらえるとありがたいんだけど」
　この店がみんなの共通点だしね、と真白は言う。
　集い場にして遊び場、たくさんの思い出が刻まれたこの店こそ会場にふさわしい。真白がわざわざ口にせずともこれは共通認識だろう。
「七枷くん、店が休みの日とか閉店後に『クラン＝G』の使用許可って出るかな？」
　店にはプレイスペースがあるので立食パーティすることに不都合はない。問題は実際に使えるかどうかだ。
「一介のバイト店員には責任ある回答はできないなぁ」陣としてはこう言うほかない。「でもてんちょー……あー、まだこの時期だとギリ三佐倉てんちょーじゃなかったかな？　に確認するよ」
　時期的にも店の譲渡前になりそうだ。入れ替えの時期が重なるため簡単ではないかもしれない。だが杏平のことだから、「おーいいぞー」と言ってくれそうな気がした。
「もちろんな、楽しみっちゃあ楽しみだけど」紅美は告げて明るい表情からふと、灯りが消えたようになる。「これってつまり、いよいよ……ってことなんだよな」
　紅美は『いよいよ』の先を言わなかった。明らかすぎるからだろう。
　陣と真白は応じる言葉を探した。
　数秒の間を置いてようやく、
「あ、僕そろそろレジに戻るわ。あんまサボってるわけにもいかんし」
　陣は一瞬真白を見てからぱたぱたと駆けていく。
　白さんと紅と、ふたりきりになれる時間を作らないと。
　陣の思いだ。実際に真白が、紅美に想いを打ち明けるかはわからない。だが機会だけは作っておきたい。そうでないと公平じゃない。
　――はぁ、何で恋敵かつ同性の女の子の背中を蹴り押して吶喊させてるんやろなぁ僕は。
　紅に振られる可能性上げるとか……アホかと、バカかと。
　複雑な気持ちではあれ悔いはないかった。
　陣の意図を真白は汲み取った。
　けれども真白は紅美にまなざしをむけて「じゃー、『TOS』でもやらない？　こないだのデッキ、一部手直ししたから」と言うにとどめた。
　パスは受け取ったよ七枷くん。
　でもシュートにはいけないよね、やっぱ。
　いまじゃない。できるとしても。
　真白のなかの葛藤を知らず、いや、知っているのかどうか明らかにせず、「オッケー。あたしも実は手を入れてきたんだよねー。Τ（タウ）を使えるデッキで」と紅美はカバンを開けてカードケースを取り出すのである。
　最初の一勝負が終わるころには、
「ひゃー、遅くなりましたー！」

　
　学年代表としてスピーチしてきた千絵が『クラン＝G』に戻ってきた。カウンターの陣と立ち話をしている。仕事の確認をしているのだろう。ずっとそうであったように。
　店内には他にもお客が増えてきたのだが、四人だけの宇宙に真白はいるような気がしている。
　千絵ちゃん、
　紅ちゃん、
　七枷くん、
　そして、私。
　告り告られ告れず、色々ある関係、いびつな菱形の四人ではあるけれど――。
　もうじき、それも終わるんだよね。