二月の魔法は春を呼ぶ｜リアクション

二月の魔法は春を呼ぶ

　たしかにいくらか待つことになったが、十数分ほどで『ねこだんご』の座敷に通された。
「さあ、お団子の時間です」
「楽しみだねぇ。そうそう、お茶もいいものを頼まないか？」
　店名にうたうだけあって、だんごのラインナップは多種多彩だ。三色団子にみたらし、よもぎ、きな粉、ずんだあたりは定番といえようが、紫いも団子に生チョコ団子なんていう変わり種もあった。前回食べ損ねたものを主として注文する。でもその一方で、「定番っちゃけども」とみたらし団子も注文した。前この店を訪れたとき、ウォルターが気に入った様子だったのを思い出したのだ。
　最初に運ばれてきたのが、まさにそのみたらし団子だった。

「ふむん、いきなり本命の登場ですね」
「会いたかったねぇ。夢に見たくらいさ」
「さすがにそれは嘘でしょう？」
「ははは、まあそうだけど」
「騙すなんてひどいです」
「ごめんごめん、そんなに怒らないでよ」
　もちろん七瀬が怒ったのは演技だ。だがちょうどいいきっかけをもらった形になったのも事実だろう。
「じゃあ僕の言うこと、ひとつ聞いてくれますか」
「お安いご用さぁ」
　ではさっそく、と七瀬は団子をウォルターにさしだしたのである。
「食べてください。あーんです」
「そうきたか」
　さすがに照れくさいらしくウォルターは目を丸くしたのだが、もう逃げられる流れではないと観念したものらしく、両腕を自分の背中にまわした。パン食い競争の要領だ。
「もう、写真とかに残さないでくれよ」
「残しません。僕の記憶以外には」
「いつか記憶喪失にしてやるからね」
「はい、あーん」
「あーん」
　ウォルターさん。
　いつだって美しくて知的でクールでちょっと皮肉屋で、ごくまれに熱くて、もっともっとまれに厳しいウォルターさんが、いますっごく、これ以上ないくらい可愛い顔をしてる。
　ぱくりと団子を口にして、むぐむぐとウォルターは味わった。
「うん、やっぱりおいしいねぇ」
「優しい甘さですよね」自分もひと串を手にして七瀬は応じる。
「僕がいま食べた団子の優しさのうち、何パーセントが倉前由来の優しさなんだろう……」
　またもドキリとしそうなことを、さりげなくウォルターは告げるのである。しかし七瀬とて慣れたものだ。
「何パーセントや思います？　ウォルターさん基準でおこたえください」
　逆に問いかけた。
「You got me. 最近の倉前は鋭いなあ」
「そりゃあ恩師が素晴らしいですから」
「ははっ、参った参った」
　三色団子が来たね、とウォルターは言った。
　桃色、白、よもぎ色、淡い色合いなのにカラフル、この組み合わせを見ると春を想わずにはいられない。
　三色団子をみるとお花見したくなりますね――。
　思いついて七瀬は言った。
「あの、ウォルターさん。桜が咲いたら僕とふたりでお花見に行きませんか？　お花見団子を食べながら、のんびりとすごしたいです」
　行くとも行かないともウォルターは言わなかった。ただ、
「お花見かぁ……もう時期そんな季節になるんだねぇ」
　何か思うところでもあるかのように、窓から空を見上げただけだった。
　こうやって次の「デート」を期待してるのは僕だけでしょうか。ウォルターさんの迷惑じゃないといいなぁ。

　最後にこぼれ話。
　先日ヴァインランズをFM局にリクエストしたのは、ウォルターではなかったようだ。
　なぜってこの話を聞いて「ええっ！　寝子島からヴァインランズをリクエストした人がいるのかい！？」と、彼は目を見張ったくらいだったから。