義を見てせざるは勇なきなり？｜リアクション

義を見てせざるは勇なきなり？

◆
　やはりマシンガンは厄介だ。一刻も早く排除したいが、そのためには。
「ちいッ！」
　盾を構えたまま、志桜里は身を深く沈める。長身を活かした深く長い足払いは、右への旋転跳躍でかわされた。
　同時に得物を振りかぶっていた黒服が、龍が飛びかかるような斬撃を放つ。
　姿勢を戻す志桜里は重心を傾け、その偏りを速度へ変換。盾の刃を使った薙ぎ払いで、青龍刀を弾き返した。
　すかさず盾を地面に叩きつけて支えとし、跳躍。空中で揃えた両足の蹴りを見舞う！
　たまらず吹き飛んだ青龍刀をよそに、着地と同時に盾を構え直してマシンガンのもとへ。
　するとマシンガンは、照準の先を志桜里へ切り替えた。その銃弾は、しかし斜めに構えた蛇盾に弾かれていく！
　舌打ちしたマシンガンは、背後の少女へ目を向けた。体力を使い果たした様子の少女は、おもちゃの包丁を握ったまま、その場にへたりこんでいる。逃げられそうにはない。
　するとマシンガンは、回りこんで逸らされない位置から盾を撃とうと、
　――パァン！
　後方から、特大の風船が破裂したみたいな音が轟いた。反射的に、マシンガンが足を止めて振り返る。
（よくわからないですけど、注意は引けるみたいですね。それなら……）
　紫苑がこの状況の活用方法を見出したのも束の間、マシンガンの銃口が紫苑の居る辺りを捉えた。
　慌てて立ち並ぶ店舗のひとつへ逃げ込む紫苑だが、意識するまでもなく、その足取りは大きな音を立てる。くわえて紫苑は、走りながら鉄扇の開閉を繰り返していた。何倍にも膨れ上がって響き渡る金属音は、これ以上ないほどに彼女の居場所をアピールしている。
　その結果、マシンガンは逃げた端から紫苑を捕捉してくる！
　もちろん、そうやって注意を引くのが目的だ。しかし、いつもと真逆の立ち回りを強いられては、紫苑も慌てずにはいられない。
（ふぇえ……いつもと違ってすぐに居場所がバレちゃって大変です！）
　涙目になりながら、紫苑は店舗から店舗へ、次から次へと必死に逃げ回る。
　そんなわけで後方――志桜里から見れば前方奥――からの爆音に、マシンガンの注意が向いたのは好機だった。
　しかし距離を詰めようとした矢先、足を掴まれて志桜里は体勢を崩す。
「っ！？」
　震脚じみた動きで踏みとどまり、振り返る。昏倒していた毒入り瓶の黒服が目を覚ましていて、右手で志桜里を捕まえていた。左手は、腰に提げた毒瓶へと伸びている。
「邪魔を……！」
　怒号と共に振り下ろした蛇盾の刃が、ギロチンめいて黒服の胸に突き立つ。確かな手ごたえは、しかし明らかに人体とは違う硬質なもの。が、今は気にしている場合ではない。
　巨大な黒いチェスのポーンへと姿を変えたそいつには目もくれず、志桜里はマシンガンのもとへ向かう。
　その後を追う青龍刀へ、タルトは並ぶ店舗の屋上から薄い本を投げつけた。
　無造作に振るわれた刀が、薄い本を弾いて地面に叩きつけた。
「そんなぁ……！」
　本に対するあんまりな扱いに、タルトは目を見開いてがく然とする。だったら本を投げるなと言われたらその通りなのだが、タルトだって好き好んで投げてるわけではないのだ。
　しかし次の瞬間、青龍刀の頭がほんの微かに動いた。たった今、彼自身が弾き飛ばした薄い本の方へ。
（なんだ、やっぱり興味あるんだ！）

　マンガが黒服たちにも――しかもどうやら人間じゃないらしい――通じたことに、思わず心の中でガッツポーズするタルトだった。
　そんな青龍刀の隙を、武道の手刀が突く。水泳の飛び込みめいた踏み込みから繰り出された刺突は、黒服の大腿筋の辺りを捉えている。
　『スイ・マー』が発動。だが直後、進化能力の告げる効き具合に武道はがく然とする。
（いやこれ効いてないね！？　どっちかと言うと覚醒してるじゃん！？）
「っ、バフしちゃったお礼にさ、事情とか目的とか教えてくんない！？」
　軽口をたたきながら、自分にも『スイ・マー』を発動。冴えわたる感覚が、青龍刀の黒服の動きを教えてくれる。
　熾烈な読み合いを繰り広げることで、武道は青龍刀の意識を釘付けにする。