義を見てせざるは勇なきなり？｜リアクション

義を見てせざるは勇なきなり？

◆それぞれの勇と武器
（はてさて、何とも不思議なことになってますけど）
　一連の不可思議な出来事に、巫部紫苑は頬に手をあてて例の電話ボックスを見やった。
　何が起きているのかはわからないが、流石に女の子が心配になってくる。
「……よし。行きましょうか」
　すたすたと電話ボックスに歩み寄ると、躊躇なく扉を開けて中へ。すると先ほど目にしたように、本来電話があるべき台の空白から物が生えてくる。
　紫苑の場合は、細長い金属板を重ねた代物だった。澄んだ金音と共に開いた様は、扇子のよう。
「鉄扇……でしょうか？」
　呟いた次の瞬間、紫苑は電話ボックスの外に居た。どこへ飛ばされたのかと思って、周囲を見まわす。そこは、無人のキャットロードだった。
　でも、どこか違和感があるような？

（図書館で資料漁らないとなー……おっ、美味しそうなお店発見！　新しいお店かな）

　ぼんやりのんびりキャットロードを歩いていた志波武道は、けれど視界の端を通り過ぎていく少女の姿に目を奪われた。
「今の子、怪我してなかったか？」
　事件か事故かと驚く間もなく、黒服の男たちが少女の後を追っていく。
（追われてる？）
　次の瞬間には、もう武道は走り出している。事情はさっぱりだが、放ってはおけない。
　それでも電話ボックス出現からの一連の流れには、流石に少し足を止めた。
（もしかしたら、罠かもしれない）
　フツウではないことに気づき、かつ飛び込める者を呼び込む罠。そんな可能性が脳裏をよぎるが、それもほんの少しの間だけだった。
　悩んだぶんだけ、少女の身が危なくなる。本当に罠だったら、その時はその時だ。
　小さく首を振って、電話ボックスに飛び込む。

　少女を多勢で追いかけるような悪漢相手ならば、遠慮なく大立ち回りもできるというもの。
　そう思えばこそ、吉住志桜里は思い浮かべる武器にも迷いがなかった。台から生えてきたのは、黒いタワーシールド。左右と底面に刃付けした、持ち主の目つきにも似た鋭さを帯びた大盾だった。

　これは星幽塔で、志桜里自身が拵えた武器。名を、睨む蛇盾と言う。
　見た目通りに重たいソレを携えて、志桜里は無人のキャットロードへと降り立つ。少女を探しつつ、共闘する仲間を見つけなければ。

（困ってる女の子を放ってはおけないよね！）
　響タルトが電話ボックスに入った時、台から生えてきたのは、頑丈そうな紙袋いっぱいに詰め込まれた本だった。
　より正確には、薄い本である。
　受験も終わって原稿に勤しんでいる最中のタルトにとっては、色々な意味でぴったりの武器だ。　
「ペンは剣より強しって言うし、なんとかなるよね？」
　幸いというべきか、袋の中の本はBLだけでなく百合やNLもある。黒服たちのヘキにも何かしら刺さるだろう。多分。きっと。メイビー！

　椎井莉鳥が少女と黒服の追走劇を目撃したのは、買い物帰りの偶然だった。
　見てしまった以上、関わり合いを持たずに踵を返すというわけにはいかない気がした。
（この島だし、何があってもおかしくないというか）
　きっと少女は本当に追われているのだろうし、ならば助けにいった方がいいのだろう。
　そういうわけで電話ボックスに入った莉鳥の前に現れた武器は、ステンレス製のトンファーだった。
「……なんで？」
　そういえば買い物中に、主役がトンファー持ってる映画の広告を見た気がする。
　とはいえ、変なものが出てくるよりはマシだろう。使いこなせるかはともかく、とりあえず持って振りまわすくらいはできることだし。

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