Pioggia　Capriccioso｜リアクション

Pioggia　Capriccioso

　感情を込めた調べに、音楽室へと誘われた白浜渚だったが、遠くからこっそりと見つめているだけで、決して教室の中に入るような事はなかった。混ざりたいとは思っても、人見知りの激しさが、一歩を踏み出す勇気を奪う。
　華やかに談笑する音楽室に背を向け、渚は屋上へと上がった。相変わらずの雨に、持っていた透明な傘を開く。雨粒が傘に弾け、足元に落ちて行く。
　あの少女は、きっと音楽がそこまで好きではない。いや、好きなのだろうが、好き以前に必要なものとして向き合っているように感じる。溢れる感情を音に乗せるのではなく、表せない感情を音に託す。だから必然的に、悲しい音が多くなってしまう。心に溜まって辛いのは、喜びではなく悲しみだから。
　伝えたいけれども伝わらない気持ち、表したいけれども表せない感情、それは渚にも沢山ある。きっと、他の人も知らずに抱えているのだろう。誰にも共感してもらえないと、伝えることすら諦めてしまっている人もいるかもしれない。けれど、伝えることを諦めてしまったら、何にもならない。
　言葉で伝えられないなら調べに、顔で表せないなら絵に、精一杯伝えれば、いつかきっと誰かが受け取ってくれるはず。
　この感情を届けたい。そう思い、歌を紡ごうと口を開いた渚の耳に、先ほどまでとは全く違う音色が聞こえて来た。