Pioggia　Capriccioso｜リアクション

Pioggia　Capriccioso

　完成した絵を前に、日菜は満足そうな笑顔を見せると、雨の上がった窓の外に視線を向けた。静かにキャンバスを片付け、手提げバッグに仕舞う。この絵は、誰かに見せるつもりはなかった。上手く描けなかったわけではないけれども、きっとこの絵は作品自体よりも、描いている過程が重要だった絵だから、完成した絵を誰かに見せるのも何だか違う気がする。
　今日は生憎の雨で何処にも出かけられなかったけれども、代わりにとっても素敵な音楽に出会えて、本当に楽しく絵を描くことが出来た。だから今日は、とっても素敵な日。
　幸福な気持ちに包まれながら教室を出た瞬間、日菜は誰かとぶつかった。カラフルな色紙が貼られた絵が落ち、小狸を連想させる少女がコロンと転がる。同じクラスの彼女には、見覚えがあった。
「ご、ごめんね、岡野さん」
「ううん、私もよく前見てなかったから」
　日菜は落ちた絵を拾うと、思わず丸美の顔を見た。どうやら彼女もまた、あの音楽に触発されて絵を描いた一人らしい。絵を描いていなければ出会わなかった偶然に、日菜は自分がいかに絵が好きかを再確認すると、転がったままの丸美に手を差し伸べた。

　渚は音楽室から聞こえてくるピアノの音色に耳を澄ませると、問いかけるように願いを込めた歌を調べに乗せた。どうしてそんな気持ちで奏でるのか、どうしてその曲を奏でるのか、あなたはどうしてそんなに孤独なのか……。

　空き教室で座り込んでいた倫理子は、聞こえて来たピアノの調べと歌声に立ち上がりそうになり、ふと扉の前に誰かの気配を感じて息を潜めた。扉の前には冴来が立っており、トンと廊下にしゃがみ込むと耳を澄ませた。
　歌が問う、何故孤独なのか、何故光を見ないのか。あなたの周りには、こんなにもあなたを思う人が沢山いるのに。
　ピアノを弾いていたあの子は、音によって肯定され、色々な人に支えられていた。けれど、私は違う。こんな私を肯定してくれる人なんて、いるはずがない。私は孤独で、この場には光なんて届かなくて、心の底では誰かが助けてくれるのを待っているのに、孤独を見つけられるのが嫌で、拒絶する。
　それでも、願ってしまう。いつか、光をと……。

　どこからか聞こえてくる歌声に呼応するようにアリーセが歌いだし、凜と瑠奈が音を合わせる。軽音楽部の部室に弾ける音を聞きながら、凜は優妃の事を思い出していた。優妃だけでなく、あの場にいた皆とまた一緒に演奏できたら、どんなに楽しいだろう。
　あの感動を分かち合う日が、また来れば良いな。そう願いながら、凜はギターを引く手に力を込めた。

　孤独の中の神の祝福が終わる頃には、再び雨が降り始めていた。窓についた雫を見つめて動かない優妃に、深雪が「帰らないのか？」と声をかける。
「……傘、忘れて……」
「なら、送ってく」
「でも……迷惑、かけるのは……」
　深雪は消え入りそうな声で呟く優妃の腕を掴むと、グイと引っ張った。
「迷惑か迷惑じゃないかは、俺が決める。で、迷惑なら最初から言わねぇ」
「遠慮しなくて良いぞ。少なくとも、俺達には」
　修の言葉に目を丸くした優妃が、ふっと息を吐き出すとふわりと微笑んだ。初めて見る優妃の笑顔は少々ぎこちないものだったが、灰色の瞳は嬉しそうに輝いていた。

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あとがき

担当マスター：雨音響希
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ご参加いただきましてまことにありがとうございました。

好きに動かして良いですよーと言う皆様の嬉しいお言葉に、遠慮なく思いっきり書かせていただきました。
アクション外の行動や心情を盛り込みまくりましたが、キャラクターさんの雰囲気を壊さないように描けていればと思います。
書いている間、物凄く楽しかったです。

またご縁がありましたら宜しくお願いいたします。

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